私の好きな言葉に「過去が咲いている今 未来の蕾みでいっぱいの今」という言葉があります。陶芸家の河井寛次郎さんの言葉です。
また、この「過去が咲いている今」に呼応するかのような詩が星野富弘さんの作品にあります。
「暗く長い
土の中の時代があった
いのちがけで
芽生えた時もあった
しかし草は
そういった昔を
ひとことも語らず
もっとも美しい
今だけを見せている」
アルストロメリアという花と共に紡がれた詩です。
さて、「美しい」という言葉を辞書で引いてみると主に二つの意味が載っています。一つ目は、目で見て伝わる美しさ。「すがた形や色、音などがすぐれていて心を奪われるような感動を覚える」と。音にも「音色」という言葉があるように、五感で感じられるものに対する美しいという感覚のようですね。
「きれいだ、美麗だ」という言葉も同義で使われることもあることから、単純に形が整っているだけではなく、その立ち振る舞いの全てにおいて相手の心を奪うような感動を与えるのが「美しい」ということなのでしょう。
一方、二つ目には、目には映らない美しさが挙げられています。「心根や行為が純粋で汚れがない。人間関係が純粋で打算がない」と。「清く正しく美しく」と三拍子に並べられる「人として」の美しさ。精神科医の夏苅郁子さんの著書名に『人は、人を浴びて人になる』とありますが、どうやら二つ目の美しさを手に入れるためには、磨き合う仲間が必要なようです。
人と接して磨き合う時、仲間と切磋琢磨する時、本気でぶつかり合えばその時間は苦しくて「暗く長い」ものになるかも知れません。でも、だからこそ「美しい今」が咲くのでしょう。そうして「いのちがけで芽生えた」何かは、周りの人たちの心を揺さぶるものになるのでしょう。
全国の受験生、4月に新社会人となるあなた、学校や学年を一段上がる生徒の皆さん。春まであと少し…美しく、咲け!
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。