文学の窓〈司馬遼太郎〉『二十一世紀に生きる君たちへ』

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 

 2023年は司馬遼太郎生誕100年の記念年です。『梟の城』で直木賞を受賞して以後、歴史小説家として親しまれ、大河ドラマで最も多い6作品(『竜馬がゆく』『国盗り物語』『花神』『翔ぶが如く』『徳川慶喜』『功名が辻』)の原作者となりました。また、小説『坂の上の雲』のドラマ化で、舞台となった愛媛県松山市には「坂の上の雲ミュージアム」が建てられています。

さて、重厚且つドラマチックな歴史を舞台に活躍し、1996年に没した司馬遼太郎ですが、彼が初めて「子ども」に向けて書いた随筆があります。それが『二十一世紀に生きる君たちへ』です。

「私は、歴史小説を書いてきた」という冒頭文から始まり、子どもにも分かりやすいように、「歴史とはなんでしょう、と聞かれるとき、『それは、大きな世界です。かつて存在した何億という人生がそこにつめこまれている世界なのです』と、答えることにしている」と、作家生活の中心であった歴史について語っています。

そして「私には、幸い、この世にたくさんのすばらしい友人がいる。歴史のなかにもいる。そこには、この世では求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常を、はげましたり、なぐさめたりしてくれているのである」とまるで自慢の友だちのように歴史上の人物達に触れています。

しかし、その司馬が「ただ、さびしく思うことがある。私がもっていなくて、君たちだけが持っている大きなものがある」と語るものがあります。それこそが、「未来というもの」なのです。

「君たちは、……二十一世紀をたっぷり見ることができるばかりか、そのかがやかしいにない手でもある。だから、君たちと話ができるのは、今のうちだということである」。自身が見ることのできない世界を生きるであろう子どもたちに、一人の歴史作家が託した想いとは何だったのか。

今まさに21世紀の夏を生きる私たちです。今回は少しだけ紙幅を広げ、「書き終わって、 君たちの未来が、真夏の太陽のようにかがやいているように感じた」と締めくくられる司馬遼󠄁太郎のメッセージに耳を傾けてみることにしよう。

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■『二十一世紀に生きる君たちへ』は最終的に「21世紀は人類が仲良しで暮らせる時代になるにちがいない」という希望へと結びついていきます。

その方法とは……

 「『やさしさ』『おもいやり』『いたわり』『他人の痛みを感じること』みな似たような言葉である。これらの言葉は、もともと一つの根から出ている。根といっても、本能ではない。だから、私たちは訓練をしてそれを身につけねばならない。

 その訓練とは、簡単なことだ。例えば、友だちがころぶ。ああ痛かったろうな、と感じる気持ちを、そのつど自分でつくりあげていきさえすればよい。この根っこの感情が、自己の中でしっかり根づいていけば、他民族へのいたわりという気持ちもわき出てくる。君たちさえ、そういう自己をつくっていけば、21世紀は人類が仲良しで暮らせる時代になるにちがいない」。

輝く未来を託された私たち

 いかがですか。決して難しくはないけれど、自己をつくるという大切な宿題が出されたようですね。そうして最後に、司馬遼󠄁太郎は私たちに熱く語リかけます。

 「君たち。君たちはつねに晴れ上がった空のように、たかだかとした心を持たねばならない。同時に、ずっしりとたくましい足どりで、大地をふみしめつつ歩かねばならい。私は、君たちの心の中の最も美しいものを見続けながら、以上のことを書いた。書き終わって、 君たちの未来が、真夏の太陽のようにかがやいているように感じた」と。

輝く未来を託された私たち。たかだかと、ずっしりと輝きながら歩んで行かなくては。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。