『ラジオ下神白』あのとき あのまちの音楽から いまここへ 

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 音楽を通じた、ちょっと変わった被災地支援活動を収めたドキュメンタリー。監督は震災後の東北の風景と人の営みを記録し続けている映像作家の小森はるか。

 まちの思い出と、当時の馴染み深い曲について話を伺い、それをラジオ番組風のCDとして届けてきた「ラジオ下神白(しもかじろ)」。そこには下神白団地に避難してきた人々の声が記録されている。2019年には、住民の思い出の曲を演奏する「伴奏型支援バンド」が結成され、生演奏で住人が合唱する歌声喫茶が行われた。


 カラオケとは違い、歌う速度にあわせて演奏する「伴奏型支援バンド」。支援とは何か? 伴走(奏)するとはどういうことか? 「支援する/される」と言い切ることのできない、豊かな関わり合いが丹念に写しとられている。

 歌をめぐる記憶を語るとき、「被災者」という括りでは収まらない一人ひとりの人生が滲む。そして一人ひとりの記憶と結びついた歌が合唱されるとき、いまここに音楽が立ち現れる。


 映画が終わっても、語る声や歌う声は、一人ひとりの住人の記憶とともに見た者の耳に残り続けるだろう。聴くこと、歌うことで記憶がよみがえる瞬間、人々がつながっている時間が捉えられた本作、ぜひ映画館で見ていただきたい。

キネマ旬報シアター 鈴木結太)