「グレース」12月7日㈯~20日㈮公開 

キネマ旬報シアターおススメシネマ

 憂鬱と魅惑に満ちたロシア辺境、ひとりの少女が旅に出て大人になる。

 乾いた風が吹きつける険しい山道。無愛想な目をした16歳の娘と寡黙な父親。二人は移動映画館で野外上映をし、ポルノ映画の海賊版DVDを若者に密売しながら、錆びた赤いバンで北に向かって旅をしている。母親の不在が二人の関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂っている。延々と続く荒涼とした風景と、そこで生きる人々との束の間の出会い。やがて辿り着くのは世界の果てのような荒廃した海辺の町。 娘は先の見えない放浪生活から抜け出すためにある行動に出る。

 少女と父親は、赤いバンで旅をしている。しかし、その旅は二人にとって非日常ではない。移動映画館で生計を立てる二人にとっては、旅こそが日常なのだ。思春期の少女は、鬱蒼とした永遠に思える時間を生き、ソ連崩壊後から時間が止まったようなロシア辺境の停滞と不穏な空気は、二人の旅に鈍くのしかかる。それでも生活に抵抗し、行動を起こす少女は力強い。

 剥き出しの大地を舞台に描く、小さくも揺ぎない抵抗の奇跡。混迷する現代ロシアに誕生した新たなるロードムービーの傑作を劇場で!
キネマ旬報シアター 鈴木結太)