『娘は戦場で生まれた』

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 今回は、2019年第72回カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『娘は戦場で生まれた』をご紹介いたします。

 いまだ解決をみない内戦地シリア・アレッポ。ジャーナリスト志望の女学生ワアドは、デモ運動への参加をきっかけにスマホで撮影を始める。しかし、平和を願う彼女の想いとは裏腹に内戦は激化し、美しかった都市は無残にも破壊されていく。

 そんな中、医師を目指す若者ハムザと出会い、恋に落ちるワアド。ハムザは仲間たちと廃墟の中に病院を設け、日々繰り返される空爆の犠牲者の治療を行っていた。だがその多くは血まみれの床の上で絶命していく。そんな非情な世界で、ふたりは夫婦となり、やがて彼らの間に新しい命が誕生する。

 明日をも知れぬ身で母となったワアドは、娘のために、家族や愛すべき人々の生きた証を映像として残すことを心に誓う。

 鳴り止まぬ銃声、破壊されていく街、並べられた遺体……。私達の想像を超える世界の現実がこの作品には刻み込まれています。生と死の境界線でカメラを回し続けたワアドの魂の記録。

 ニュースでは見ることが出来ない戦争の真実、そして絶望の暗闇に灯る希望の光を捉えた珠玉のドキュメンタリー作品です。

(新井貴淑)