今回ご紹介する作品は『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』です。
熊本県に住む林恵子さん、67歳。一見平穏な日常を送っている彼女には、誰にも言えない秘密があった。それは実の姉が北朝鮮にいるということ。
1959年から1984年にかけて在日朝鮮人とその家族による北朝鮮への集団的な移住が行われた。日朝両政府のそれぞれの思惑から始められ、恵子の20歳上の姉、愛子は1960年に在日朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡っていった。
渡航後、日朝関係は悪化し、互いに音信不通の状態に。58年の歳月が流れたある日、姉の消息が知らされる。「拉致されたらどうするんだ」という子どもたちの反対を押し切り、恵子は訪朝を決意する――。
『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』は人生初めての海外旅行が北朝鮮となった林恵子さんとその家族を追ったドキュメンタリー作品です。取材制限が厳しい北朝鮮の不思議な景色と、政治や時代に翻弄され、取り残されていった姉妹の人生が再び交わる瞬間が映し出されています。
わたしたちがいままで無視してきた歴史的事実、そして人権問題と向き合うきっかけになるかもしれません。キネマ旬報シアターでお待ちしております。
(大野健志郎)