『レ・ミゼラブル(2019)』

キネマ旬報シアターおススメシネマ
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 劇場で安心して映画を楽しめる日が早く来ることを切に願い、4/10現在、キネマ旬報シアターは休館中。再開時期は未定ですが、今後上映の魅力的な作品をご紹介します。

 ミュージカルやヒュー・ジャックマン主演映画など、数多の作品で原作となったユゴーの傑作小説「レ・ミゼラブル」。2019年制作の本作では、舞台であるパリ郊外の街・モンフェルメイユの“現在”を描いています。

 かつての花の都パリは、一部がいまや混沌とした犯罪地域と化していて、多様な人種と宗教が入り乱れる中、貧困、差別、権力に抑圧された弱者は、まさに“ミゼラブル(悲惨)” 今なお繰り返される悲劇の連鎖といえます。

 作中では、犯罪防止班に異動してきた警官が見たモンフェルメイユの日常と、ある少年が起こした些細な事件が取り返しのつかない方向へ進み始める様を描きます。

 ラジ・リ監督はモンフェルメイユで生まれ育ち、今も在住。自身の体験を基にしたリアルさは、鑑賞したフランス大統領に「直ちに該当地域の生活条件を改善するよう行動を起こすべき」と発言させるほど。民衆の圧倒的な怒りのエネルギーを、巧みな演出でスタイリッシュに昇華させたおすすめの1本です。

(海老原敦子)