知っていますか? エナメル質形成不全

医療最前線Drリポート

日本大学松戸歯学部は歯科学を「口腔科学(Oral Science)」と捉え、医学の一分科としての教育を展開。最前線で活躍する歯科・医科のスペシャリストに、医療現場の現在と未来について連載でリポートしてもらう。

日本大学松戸歯学部小児歯科学講座 教授 清水武彦 先生

小児歯科の治療の際に、しばしば“エナメル質形成不全”の歯を診ることがあります。エナメル質は歯の表層を覆う人体で最も硬い組織です。エナメル質形成不全は、エナメル質の色や形に異常を生じた状態のひとつです。
永久歯のエナメル質形成不全の原因は、乳幼児期に顎骨の中で永久歯の卵(歯胚)が何らかの成長障害を受けることです。今回は小児期にみられるエナメル質形成不全と主な原因について紹介します。

写真1 乳歯外傷による永久歯前歯の変色(8歳)

幼児期の乳歯前歯の外傷が原因のもの

特に多くみられるもので、永久歯の前歯のエナメル質形成不全です(写真1)。

原因は、0~3歳の転倒によって乳歯前歯に外傷を受けることです。顎の骨で成長中の永久歯の歯胚が損傷を受けます。
これによって、永久歯が生えてきたときに色や形の異常がみられます。外傷が重度であるほどエナメル質形成不全は生じやすくなります。4歳以降での受傷では、前歯の形成不全はほぼ生じません。

幼児期の大きなむし歯が原因のもの

4番目、5番目の永久歯(小臼歯)に多くみられるエナメル形成不全です(写真2)。

原因は、乳歯の“神経(歯髄)”が死んでしまうような大きなむし歯の長期間の放置です。

写真2 乳歯の根の病巣による上顎4番目の永久歯の変色(11歳)

幼児期の乳歯のむし歯によって歯髄が失活し、根の先に膿を生じることがあります。永久歯の卵がこの膿に接して成長すると栄養状態が悪く、エナメル質が健康に育ちません。
結果として、永久歯が生えてきたときから色や形に異常がみられます。”ターナー歯“と呼ばれます。このように乳歯の大きなむし歯を長期間放置すると、永久歯の異常を生じることがあるので注意が必要です。ターナー歯が前歯に生じた場合、外傷で生じた形成不全と、外観では区別できない場合が多いです。

原因不明の永久歯前歯と6歳臼歯のエナメル質形成不全

MIH(Molar Incisor Hypomineralization)と呼ばれ、原因不明で6歳臼歯や永久歯前歯のエナメル質形成不全がみられます。歯の一部分の色や形の異常から、エナメル質全体に異常がみられるものまで様々です。

写真3 原因不明の上顎6歳臼歯のエナメル質形成不全(7歳)

エナメル質形成不全の対応

歯科の対応として、部分的な軽度のエナメル質形成不全は、小児期は経過観察することが多いです。歯の変色や形の異常が中等度の場合、コンポジットレジンと呼ばれる材料で色や形を修復します。
エナメル質形成不全が重度の場合、冷たいものに歯がしみることがあります。その場合、コンポジットレジンで修復するか、あるいは歯全体に被せ物をする治療を実施します。

日本大学松戸歯学部付属病院