医療最前線Drリポート208回

ふれあい毎日連載

大臼歯のでき方と完成した歯の形の関係を探る

日本大学松戸歯学部 解剖学講座 教授 近藤信太郎先生

大臼歯は食物を嚙み砕いたり磨り潰したりするため、山あり谷ありの複雑な形をしています。「山」を咬頭(こうとう)といい、通常は上の歯に四つ、下の歯に五つありますが、人によって増減することがあります。本稿では歯の形の違いを、歯のでき方によって説明する試みを紹介します。

大臼歯はどのようにできるか

歯は口の粘膜の一部が増殖・特殊化した原基(げんき)(歯胚)(しはい)から形成されます。歯胚が帽状期とよばれる時期になるとエナメル結節(EK)とよばれる細胞塊が現れます。EKは様々な増殖因子を発現して歯胚の発育・分化を促進しますが、短期間で消失します。帽状期はどの歯もほとんど同じ形をしており、まだ歯種の区別はつきません。

歯胚が次の段階(鐘状期)(ぼうじょうき)に進むと、将来の咬頭の数、位置に対応して二次EKが現れます。咬頭にはできるのが早いものと遅いものがあり、EKの出現もそれに対応して時間的ズレが生じます。

二次EKも最初に一過性にできたEK(一次EK)と同様、歯の形態形成・分化を誘導する領域(シグナリングセンター)として働きます。EKが活発に働いている間、その周囲に発達が抑制される領域ができます。鐘状期後期になると凹凸がはっきりして、それぞれの歯に特徴的な形が現れはじめます。

完成した大臼歯とでき方の関係

2000年にフィンランドの進化発生生物学の研究者、ヤンバールらはEKの時空的相互関係が、将来の咬頭の配置や大きさのパターンを決定するモデル「パターニングカスケードモデル」を考案しました。歯の形態形成は咬頭の空間的な関係によって、カスケード(=連続する滝)のように連鎖的に進行します(図)。私たちは、上顎第一大臼歯ではカラベリー結節(写真)が発達した歯はサイズが大きいにもかかわらず咬頭間の距離は小さいことや、上顎第二大臼歯の遅く形成される咬頭が消失するときには、早く形成される咬頭が大きくなることを明らかにし、このモデルの有効性を示してきました。

このように完成した歯の形から歯がどのようにできたかが推測でき、将来は歯の形態異常の形態形成を解明することが期待されます。

■日本大学松戸歯学部庶務課☎047・360・9567。

図:「パターニングカスケードモデル」

 三角形は咬頭、点線円は抑制域を示します。(1)歯胚が小さく、咬頭AとBが近接していると、咬頭間が抑制域で占められ過剰咬頭は形成されません。(2)歯胚が大きく咬頭AとBが離れていると、咬頭間の非抑制域に小咬頭Cが形成されます。(3)咬頭AとBが近接していると咬頭間は抑制域で占められますが、歯胚が大きいため咬頭Bの外側の非抑制域に小咬頭Dが形成されます。

写真:「カラベリー結節」

 上顎第一大臼歯にはカラベリー結節(矢印)が見られますが、隣の第二大臼歯には見られません。