誰もが深く理解していない、妊婦歯科健診の重要性
少子化対策としての妊婦歯科健診
日本大学松戸歯学部 衛生学講座教授 有川量崇(かずむね)先生
わが国は少子化が進んでおり、2023年の出生数は75万8631人となり、1899年(明治32年)の人口動態調査開始以来、最少となりました。昨年(2023年)「こども基本法」が施行され、さらに「こども家庭庁」が設置され、少子化対策や妊娠・出産支援などを含むこども政策がより強化されます。我々、歯科関係者としても、人生のスタートとなる妊娠期からの妊婦歯科健診や食育指導を充実させ、子育てをしやすい社会作りに貢献できると思っています。今回は、妊婦と口腔環境について説明したいと思います。
妊婦の口腔環境の維持は大変です
妊婦の良好な口腔環境は、胎児の成長や乳幼児の健康な口腔環境に強く影響することはわかっています。しかしながら、妊娠時はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの血中濃度増加、さらに特定の歯周病関連細菌の増加などの関与から、歯肉炎や歯周病になりやすくなります。
また、妊婦の50~80%が嘔吐、口渇、食欲不振などを主症状とする「つわり」を経験します。特に妊娠16週未満は、口腔内の衛生環境が悪化しやすく、むし歯および歯周病に罹患するリスクが高まるといわれています。
私共が千葉県松戸市で実施しました妊婦歯科健診の結果と、全国の妊婦以外の同年代の女性の結果とを比較した図を示します。どの年齢層でも、妊婦のほうが、歯肉の炎症もありますし、歯周病にもなっています。図には示しませんが、妊婦のほうがむし歯も多い結果でした。このように妊婦の口腔環境は悪化しやすいのです。
歯周病と早産・低体重児出産の関連性
歯科疾患は全身疾患と関係することが知られています。その中でも、歯周病は糖尿病や心血管疾患、呼吸器感染症、メタボリック症候群などの全身疾患と関連していることが報告されています。
また、歯周病のある妊婦は、早産や低体重児出産のリスクが高くなることがわかっています。そのリスクは実に2~4倍にものぼります。これは歯周病により作られた炎症性物質が、血液を介して胎児や子宮に影響を及ぼすために起こります。
以上のことから、妊婦になっても歯ブラシ、フロスで口腔清掃をして、妊婦歯科健診にいくように心がけてください。
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