DRリポート216回 

ふれあい毎日連載

バイオフィルムの病原性と誤嚥性肺炎

日本大学松戸歯学部 感染免疫学教授 

泉福 英信先生 

泉福 英信教授

口の歯垢(バイオフィルム)には、高齢者になると様々な菌が住み着くようになります。若いころにはあまり感染していないカンジダ菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌(かんきん)などです。これらは、免疫力が低下した時に出てきやすい菌(日和見菌とも言います)で、通常の口腔常在菌よりも病原性が高いと考えられています。

高齢者は、飲み込みが悪くなるとバイオフィルムが剥がれ唾液中に含まれたこれらの菌を肺に誤嚥することがあります。免疫力があれば、例え誤嚥しても問題がありませんが、全身疾患などで免疫力が低下している時には肺炎を起こす可能性が出てきます。

う蝕、歯周病および誤嚥性肺炎の予防

 バイオフィルムを歯から剥がさなければいけない理由は、う蝕や歯周病の予防に加え誤嚥性肺炎の予防になるからです。

バイオフィルム内で死菌が増え、歯石ができるとその周りの環境は変わってきます。歯と歯肉の隙間の嫌気度も高くなり、酸素を必要としない嫌気性菌が増えてきます。それらの菌は、歯肉へ感染すると炎症を誘導します。それが、歯周病発症のきっかけになります。

歯石などの蓄積により環境が変わると、日和見菌を含め様々な菌が蓄積しやすい環境になります。バイオフィルムや歯石を除去して、口腔微生物の生育する環境を維持、または整えることで、う蝕や歯周病および誤嚥性肺炎の予防に繋がります。

予防方法

バイオフィルムを物理的に除去するには、歯ブラシによる口腔清掃がもっとも効率の良い予防方法になります。しかし、歯を磨く方法には必ず問題があります。ヒトそれぞれ磨く癖があるからです。同じところばかり磨いて、他の場所に磨き残しが出来ることで、そこにバイオフィルムが蓄積していきます。その部分に死菌も歯石も増えていきます。

よって、定期的に歯垢や歯石を歯科医院でチェックしてもらうことを勧めます。専門家の力をかりることで、より口腔の健康が守られることになります。

口腔を介する感染症を制御することが令和の目標

 COVID-19や、う蝕、歯周病および誤嚥性肺炎は、口腔との関りがあって疾患が発症するという共通点があります。口腔を健康に保ち、感染症を制御することが令和の時代を楽しく生きるために重要と考えます。

■日本大学松戸歯学部庶務課☎047・360・9567。