感染と免疫・予防②
口中の細菌
日本大学松戸歯学部 感染免疫学教授 泉福 英信先生
口にはたくさん菌がいます。唾液1mlあたり多くて108個の菌がいます。これらの菌は口の中でよいことをしていて、外から入って来る病原性を持つ菌が口に感染しないように守っています。人間の進化の過程で獲得していった菌です。腸内細菌と同じように必要だからいます。
一方で、ヒトは毎日食事をしています。毎回毎回食物を口に入れて、菌に栄養源を与えています。菌にとってみればありがたい栄養です。それを食べて菌は元気に増えて行きます。唾液中で増えた菌は胃に流されて行きます。しかし、歯の表面に付着して増えた菌はそのまま歯の上に残って凝集体を作ります。これが、いわゆる歯垢です。これをバイオフィルムとも言います。
いったんバイオフィルムができるとなかなか取れません。歯ブラシを使って歯を磨くのは、このバイオフィルムを取るためです。良い菌だったら取らなくてもよいのではと思うかもしれませんが、そうではありません。
バイオフィルムは虫歯や歯周病の原因
バイオフィルムを取らなければいけない理由は、う蝕や歯周病の原因になるからです。ヒトの食生活は多様です。ご飯、パン、肉、お菓子、フルーツなどいろいろなものを食べます。なかでも砂糖の含まれたお菓子などは、なかなか取れにくいバイオフィルムを作る原料になります。
砂糖を食べなくてもヒトは生きることがで出来ます。しかし、ヒトは美味しいものを食べるために砂糖を利用して様々な食べ物を作ります。ヒトの知恵が結果的に口の菌を悪者にしてしまう要因になります。美味しいものを食べるためには歯を磨かなければならないということです。
砂糖によるバイオフィルムの出来方
砂糖は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合したものです。この砂糖が口の中に入ると、ある菌が砂糖を利用してねばねばした物質を作ります。これをグルカンと言います。グルカンは、グルコースを原料とし歯表面のバイオフィルム形成を助けます。
またフルクタンも作ります。フルクタンは、フルクトースを原料とし菌にとって栄養物の貯蔵庫になります。歯の表面に付いたフルクタンを少しずつ食べて菌は生き永らえて行きます。
バイオフィルムの持つ不思議な能力
バイオフィルム内での菌は、増えすぎると菌を殺すシステムが働きます。よって、死菌が増えていきます(図)。その死菌が増えて来ると、その部分が歯石になっていきます。歯石が溜まると、歯周病の原因になります。
■日本大学松戸歯学部庶務課☎047・360・9567。