口の中にできる「癌」(がん)のこと
日本大学松戸歯学部
有病者歯科検査医学講座 教授
福本 雅彦先生
口の中の癌はどこにできるのか
基本的には「歯」以外の口の中の粘膜に覆われた部分のどこにでもできます。実際には圧倒的に多発するのは舌です。それも舌の付け根の方の両端の部分です。医療機関により差はありますが、私共の病院に来院された癌の患者さんの約60㌫はこの部分です。次いで歯肉、頬の内側の部分などとなっています。
口の中にできる癌の原因にはどのようなものがあるか
ここでは口の中に起こる癌に関連が深いものについてお話し致します。
口の中の癌と密接な関係のあるものとしてタバコとアルコールが挙げられます。タバコの煙の中にはみなさんがよくご存知のように、いろいろな発癌物質が含まれています。
またアルコールは口の中の粘膜の脂質(油分)をとり去ってしまういわゆる脱脂作用があります。口の中の粘膜の脂質は外部から身体の中に化学物質が浸透してくるのを防ぐ働きがあり、この脂質が剥がされてしまうことは堤防が壊された川と同じ様な状態になってしまいます。
さて、タバコを吸う方がお酒を飲むと、吸うタバコの本数がとても増えてしまうというお話を耳にすることがありますが、これは口の中の癌の発生という観点からは最悪のパターンであるといえます。
なぜならばタバコの煙の中の発癌物質は、とてもアルコールに溶けやすい性質を持っていて簡単に粘膜に浸透し細胞に影響を与えるのです。その上、先に述べたようにアルコールは口の中の粘膜の堤防を破壊してしまうのですから、発癌物質はさらに細胞内に入りやすくなっているわけです。
タバコやアルコール以外にも注意を
タバコとアルコールの他に気をつけなければいけないことには虫歯を治療せずに放置しておくことや、合わない入れ歯を使い続けることもあります。例えば虫歯によって歯が壊れてくると、割れてとがった部分に舌や頬の内側がいつも接触していて傷を付けるということが起こってきます。これを機械的刺激と呼んでいます。この機械的刺激のみによって癌は起こらないと考えられていますが、慢性的に粘膜に傷が付いている状態にあると、この場所からいろいろな化学物質が粘膜に侵入してくることが容易になります。
またもう1つはお口の中の清掃状態が悪いと口の中にいつも炎症が起きていることになり、この状態が長期続くとやはり癌の発生に深く関わってくることとなります。
■日本大学松戸歯学部庶務課☎047・360・9567。
口の中にできる癌の原因
1.タバコ
タバコ煙中の発癌物質が細胞を傷つける
2.アルコール
口の中の油分(脂質)をはぎ取ってしまう。
口の中の粘膜には脂質があり、これは外から化学物質が進入するのを防ぐ働きがある。アルコールはこの脂質をはぎ取ってしまうので化学物質が進入しやすくなる。
3.治療せずに放置した虫歯
虫歯によって壊された歯のとがった部分が、舌や頬の肉に常に接して傷をつけている状態。
4.合わない入れ歯や冠
5.清掃状態の悪い口の中
※タバコとアルコールの相乗作用
タバコ煙中の発癌物質はとてもアルコールに溶けやすい性質をもっているのでより簡単粘膜に浸透してしまう。