放課後の黒板消し74
春休みを迎え、部活動が活発になってきました。冬の間に走り込みや基礎練習を積み上げた運動部は、一回り大きくなった身体で遠征や練習試合に繰り出します。四月に始まる春大会はもうすぐそこまで来ています。
一方、文化部もまとまった時間の練習や他校との交流、師匠をお呼びしての緊張感のある稽古など、技術や所作に一層の磨きを掛けます。
どの部活でも、長期休みにはOBが手伝いに来てくれるのも魅力です。先輩の胸を借りて成長するチャンスです。
さて、特に武道の世界においては「出稽古」という文化があります。各チームがそれぞれ準備運動をして試合に臨み、勝敗をつけるところまでが目的の練習試合とは異なり、柔らかく言えば合同練習に近いものですが、稽古始めの「黙想・礼」から全ての時間を共有します。
道場はもちろん、他校の師範や上級生など、普段とは違った環境に囲まれながら、共に汗を流す時間。稽古の本数や順番、かけ声一つとっても新鮮なリズムで重ねられる切磋琢磨の瞬間。出稽古は一つひとつの練習の意味を改めて考え直すことができる貴重なものです。
何よりせっかく集まったのだから良い稽古にしようという思いが根底で繋がっていることが大きな価値です。いつもの練習ではなかなか追い込みきれない「もう一本、もう一回」という苦しい場面で底力が出てきます。「根性論」にはなかなか手厳しい時代ですが、自分だけ、いつもの仲間だけではなかなか越えられなかった限界の壁を突破するきっかけになります。
最後の最後、補強運動の腕立て伏せで「ラスト十回は全員で声を出そう」の声。「イーチ、ニーイ、サーン……」今日一日の稽古が良ければ良いほど、全力を出し切った身体にはキツイ最後の十回。されどこの日一番の大きな声が出るのもやはりここなのです。とびきりの疲労とそれ以上の達成感を胸に出稽古は幕を閉じます。
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。