日に日に日没が早くなる秋は、夕方になると急に日が暮れたような感覚になります。
これを表現したのが「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」という言葉です。
釣瓶は井戸水を汲み上げるための桶で、滑車付きの縄の先につけて井戸の中に落とし、底にたまった水をすくうようにして使います。その釣瓶が落ちるがごとく、夕日が早く沈むという例えです。
実は1年のうちで日没が最も早くなるのは、冬至(2022年は12月22日)ではなくその10日くらい前です。つまりちょうどこの記事が出るあたりは、特に日が暮れるのが早い時期と言えます。ピーク時の東葛地方は午後4時半を待たずに日没を迎えます。そこで、日没前後の空や景色の変化を感じながら散歩してみるのはいかがでしょうか。
太陽側の空(西側の空)は夕焼け色に染まります。まだ日が高いうちは黄色っぽいのですが、日が傾くにつれ、黄橙色~橙色~朱色と次第に赤みが強くなります。この色は大気の状態などにも左右されるため、日ごと、場所ごとに少しずつちがって見えます。
また夕方の西の空は、地平線から上に向かって赤~橙~黄~緑~青と虹と同じ並びの色のグラデーションとなります。緑系はなかなか見えないのですが、稀にはっきりと分かることがあります。
太陽と反対側の空(東側の空)にも注目してみましょう。地平線付近に紺色~ピンクの色のグラデーションが見えることがあります。これは地球の影が空に写りこんだもので、地球影(ビーナスの帯)と言います。
日没後もすぐには真っ暗にならず、しばらく薄明るい状態が続きます。これを「薄明」と言い、太陽の位置や明るさによって、市民薄明、航海薄明、天文薄明と3つの段階に分けられています。
市民薄明の段階ではまだ外作業ができる明るさがあります。一方の天文薄明は感覚的にはほぼ真っ暗で、天文観測に適した暗さに達した状態を言います。
薄明の時間帯はシルエットと照明、空の色彩の組み合わせが非常に美しく、芸術的な写真を撮りやすいことから、写真家の間では「マジックアワー」と呼ばれています。ときにあたりがぼんやりと濃紺色の光に包まれたような感じになることもあり、それはブルーモーメントと呼ばれています。
わぴちゃん(岩槻秀明)プロフィール
気象予報士。自然科学系のライターとして植物や気象など自然にまつわる書籍の制作に携わり、著書は20冊以上におよぶ。千葉県立関宿城博物館調査協力員、野田市史編さん委員会専門委員なども務める。宮城県生まれ野田市育ち。わぴちゃんホームページ