条旗「清風」《書の力 第4回》

書の力

成田山書道美術館

富岡鉄斎 条旗「清風」

大正13年

「清風」は大正13年(1924年)の煎茶会(せんちゃかい)で使用された条旗(じょうき)です。条旗は竹竿につりさげて目立つところに掲げ、茶席のあることを知らせる臨時看板のような役割がありました。

「清風」の言葉は、江戸時代の黄檗宗(おうばくしゅう:禅宗の一派)の僧で、煎茶の中興の祖として有名な賣茶翁(ばいさおう)の時代から、伝統的に用いられています。いろいろな活動が展開された煎茶会ですが、清談と詩書画の制作はつきものでした。

「お茶を一服、気持ちをさわやかに」そんな茶席の空気感が言葉に漂っています。

岡倉天心が『茶の湯』で抹茶を浪漫派、煎茶を自然派と例えたように、煎茶の精神は厳格なものではなく、日常的な茶道として親しまれてきました。煎茶道は、江戸時代に始まり、当時の文化人たちの間で流行します。さらに、明治期には開国の影響もあり、煎茶会は爛熟期を迎えます。文化人にとって憧れの中国趣味はより身近になり、多くの明清の書画、美術品や骨董品などの文玩(ぶんがん)が会場を彩りました。

この条旗を揮毫した富岡鉄斎(1836-1924)は、近代日本画史上、独自の地位を築いたことで世界的にも人気があります。学者でありながら詩書画に巧みで、明治・大正期に活躍しました。大胆な筆運びの作品を多く残しており、没年の作であるこの条旗にも鉄斎の特徴がよく表れています。この煎茶会において主要な人物の一人だったであろう鉄斎のこの肉筆文字は、大きな存在感を放ったことでしょう。まさしく「書の力」です。新緑の美しいこの時期に、新茶と共に楽しんでみてはいかがでしょう。この作品は当館で今月5日から7月11日まで展示します。(展示替え休館の5/17~5/21を除く)。(学芸員・谷本真里)