金子鷗亭(おうてい)(1906-2001) 金子四郎(聴松)宛書簡
19.0×82.2㎝ 紙本墨書 1通 成田山書道美術館蔵
第二次世界大戦後、いち早く書壇の再結成に尽力し、日本を書の力で復興に導いた一人に金子鷗亭(おうてい)がいます。この手紙は、鷗亭が門下の金子聴松(ちょうしょう)に宛てたものです。
鷗亭の住む東京への空襲が本格化した昭和19年の暮れ、秘蔵の法帖を千葉の聴松に預けることを決意し、この手紙で打診しました。聴松は師の依頼に応え、法帖を死守して鷗亭の願いをかなえました。この快事は法帖で学ぶことを「緊要にして欠くべからざるもの」と評し、自らの書の根底に置きつつ新しい時代の書を模索していた鷗亭のその後の大きな後押しとなったのです。
近代詩文書という新たな書表現の在り方を確立し、創設時から中心になって盛り立てた毎日書道展は国内最大級の書展として今年七十五回展を迎えました。この手紙からは書にかける人々の情熱が感じられます。(学芸員 山﨑亮)
【釈文】
拝復御見舞被下御厚
情謝し上候以御蔭家族
無異御放慮被下度候
一度参上致度存居候
へとも御客様仲々に
うるさく意に任せず
駒り居候新春に入候ハ
は早々に御邪魔致度
尚其の節書道関
係法帖類御保管御頼
申上度存居候處御都
合如何に候哉御伺申
上候大したもの無之候
へども御保管中精々
御利用願度存居候
空襲下ながらよき
御超歳被遊候様
祈上候 敬具
鷗亭
金子四郎(聴松のこと)様
十二月二十八日