「眠雲臥石」《書の力 第21回》

アート

「眠雲臥石」 貫名菘翁(ぬきな すうおう)

二曲半双 紙本墨書 安政4年(1857) 各130.0×62.1㎝

貫名菘翁(ぬきな すうおう)(1778-1863)は、江戸時代後期に儒者、書家、画家として活躍し、書においては市河米庵(いちかわ べいあん)、巻菱湖(まき りょうこ)とともに幕末の三大家として知られています。

この時代は唐様の書が流行し、菘翁も宋~明時代の書を学びますが、次第に晋唐時代に遡って王羲之(おう ぎし)書法を尊重するようになります。日本では中国の法帖(ほうじょう)を複製した和刻本の出版が盛んになり、菘翁は数多くの墨帖を手元に置いて古典学習に励みました。

 「眠雲臥石(みんうんがせき)」(雲に眠り、石に臥す。雲の涌くような深山幽谷に生活し、石に横たわるような粗末な庵に住むこと)は80歳の晩年の作で、筆圧をかけダイナミックに筆を運びます。菘翁を代表する大字作品のひとつです。

この前年に下鴨神社に蔵書を奉納し、自身も神社のそばにある糺(ただす)の森に転居して神前に奉仕する身になりました。「眠雲臥石」は、世間から離れたところに身を置き余生を楽しむ菘翁の心情を書いたものでしょう。

(学芸員 田村彩華)