言葉を選ばずに記せば、「やや不穏な光景」ではあった。
11月3日福岡県のベスト電器スタジアム。
試合後のあいさつを終えた古賀太陽が柏レイソルサポーター席へと歩み寄り、「彼ら」の有志数名と言葉を交わしていたからだ。
その場でなされた会話は以下の通りと聞く。
「自分たちもこの状況を背負う。しっかりと準備して最高の日立台を作り出すから」
レイソルを支えるためなら遠方へも駆けつける彼らではあるが、望まぬ結果が続く中、遠く福岡まで駆けつけた彼らが何かしらのフラストレーションを抱えていたとて不思議ではなかった。以降、2回のホームゲームが開催された。残された日程を見ても、更新された順位表を見ても、バッドエンドを想像する方が楽だったかもしれないが、「背負うこと」を彼らは選んだ。
そんな中でも、この背負い方がまた立派だった。
力づくで何かを興すのではなく、もう一度問い掛けた。
福岡遠征の疲れも癒えていないであろう朝、公開練習を見届けて、ファンサービスエリアに並び、再び古賀の前へ進み、意思を交わし合っていたという。
日立台で育った1人の記者として、このスタジアムが持つ力、その光と影は見てきたつもりだ。
良くは見えない関係性の日も、必要以上に偏った日も、噛み合ってしょうがない日も見てきた。今季で云えば、10回程度の歓喜しかなかった。それでも、「背負う」と誓った彼らは、美しい秋の陽光が差し込む日立台を力強く、またどこか優しくデコレーションしてみせた。
「いつも最高なんですよ。『勝ったあとの日立台』って。10月の横浜戦ではスタジアムを回りながら、たくさんの方々が笑顔で手を振ってくれて、そんなスタンドを見渡して、『…この特別な瞬間のために努力してきた』って実感するんです」
古賀がそんな話をしてくれれば、立田悠悟の場合は試合日の朝に会場入りする選手たちへ檄を飛ばす有志たちとの瞬間を例に挙げてから、こんな話をしてくれた。かつては彼らの目の前で号泣したこともあったっけ…。
「レイソルに来て2年になる。自分の中であの人たちは『一緒に戦ってくれている一員』だという気持ちは強い…今日も最後に、一部の方々にはなってはしまったんですけど、サポーターの方々に『大丈夫!見ていて』とお伝えをしました。もう、理屈じゃないんで」
今年レイソルに加入した島村拓弥も特別な愛着を語ってくれた1人。
「2月に日立台でデビューできて、『すごい雰囲気のスタジアムだ』と実感しましたし、レイソル初ゴールも日立台。そんな1年目ではありますが、自分の名が入った旗やタオルを見せてくれている方がいることが分かった時や数が増えた時はうれしかった」
勝利のために戦う選手たちと彼らを支え続けるサポーターの距離感はかつてないほど良い関係に映る。
細谷真大がゴールを決めれば、どこへ行く?木下康介はどこへ向けてさらなる声援を求める?その素晴らしさの言語化ついてはあの表現力豊かな戸嶋祥郎をもってしてでも困難なことだという。
「試合中に自分の名前がコールされるだけでも力になる。苦しい時だってそうですし、特にゴールを決めた時の声援なんて、『言葉で表現できないもの』。本当にあの瞬間は表現できない。あえて言うとしたら、『これ以上はない、幸せな時間』ー。ですかね」
気持ちをこめて、「いいとも」や「笑点」のテーマ、「北酒場」を模したチャントを熱唱する。いい大人が、大勢で、大声で。
100m以上向こうにいる松本健太が相手のPKを阻むよう見守る姿なんて祈祷に近かった。
試合終盤に繰り返された悲劇にも瞬く間に気持ちを切り替えて「点を取るぞ!」とスタジアムを一つにする。背負い方が違うんだ。覚悟が違うんだ。ユニットでもグループでもなく、同じ意思を持つ「トライバル」なんだ。
そんな彼らがある試合で選手たちへ向けて掲げたある言葉は今の彼らの中にある危機感や希望、そして、愛ゆえの厳しさが詰まっていた。
「己の為 皆の為 柏の未来を懸けて戦え。」
その通りなのだ、常にそう在らなくてはいけない。
彼らは声援を送ることや「背負うこと」でそれをしている。どの試合の盛り上げ方がどうだったなんて野暮なことをする私ではないが、何度かあった「大一番」だった神戸戦ではかつてのスローガンでもあった、「一心同体」をコレオ化してきたのだから、それ相当の危機感があったのであろう。
結果は難しいものになったし、「感動をありがとう」ときれいごとを言い、記すつもりはないし、「感謝をしろ!」などと言う立場でもない。ただ、すごく臭いんだ。人間臭いんだ。私はそこに選手たちとほぼ同等の敬意を払う。
タイトル?スタイル?それらは常に素晴らしい。だが、それよりも先にすべきことは選手とクラブが彼らを背負い返して共に歩むこと。
次に見たい柏レイソルは「未来を背負い、未来を懸けて戦う柏レイソル」だ。
順位表を見れば、もう上を見るしかないじゃないか。どう見たって行き先は明確だ。倒れても、何度でも、また一緒に上まで昇るんだ。
(写真・文=神宮克典)