最終コーナーで -中島舜&田村蒼生&戸田伊吹

レイソルコラム

 2025シーズンからの柏レイソル加入が発表されている中島舜(流通経済大学サッカー部)を取材した。

 …といっても、たった2試合。昨年を併せても4試合程度だが。

 中島は流経大の右サイドを中心に左右のアタッカーを務めるが、ゲームプランによっては右SBでも起用されていた。そうなってくるとその特性上右WBだってこなしてしまう。

 レイソルへの加入内定の公式リリースにも「FW/MF」と表記されていたが、その表記に間違いはない。むしろ「FW/MF/DF」と記していいくらいの選手だ。

 あまりハードワークに肩で息をして、足を攣ってしまうシーンも見たものだが、不思議と、攻撃的な役割のみを任されていた柏レイソルアカデミー時代よりも輝いて見えた。

 中島については前項で書いたが、彼は「チームを助けたい」とよく話す。自分の特長を聞いても、課題を聞いても、今後のビジョンを聞いても「助けたい」との表現を用いることが多い。「助けたい」を誓うきっかけは私たちからすると少し意外なものだった。

 中島には現京都サンガF.C.監督の曺貴裁氏とのタイムラインがある。中島は流経大監督時代の曺氏と出会っているのだ。

 そして、その曺氏の目線からすると中島は「試合の流れからやや消えてしまいがちな選手」という印象があったという。当時、2年生の中島へ対して、「攻撃だけでなく、守備でも貢献できれば、試合から消えることはないし、もっと目立つ選手になれる」という旨のアドバイスがあったという。

 「消えているつもりはなくても、周りで見てくれている人にはそう見えてしまっているということなんでしょうね。そのアドバイスをきっかけに、そこから『1試合を通じて、90分間。攻撃と守備で目立つことができる選手になりたい』とやってきました」

 中島は言うー。

 「その後も曺さんには気に掛けていただいていて、少し前にも話せる機会があったんです。以前から、『足があんなに速いのになんで走らないの?』と言ってくれたり、『何のためにプロになるんだ?』とも言われてきました。また、『レイソルではどうだったの?』と聞かれ、自分は『戦術面ではまだ自分には難しいところがありました』と答えたんですけど、すぐに『その戦術だけをやるためだけにプロになるの?違うよな?何を学んだんだ、流経大で』と。『いや、自分の武器はスピードと右でも左でも攻守にプレーできること。それを出すためです』と気づかされました」

 曺氏が長年展開しているサッカーをベースにこのやりとりを紐解いてみると、今の中島に眠るポテンシャルに興味を抱くサポーターも多かろう。鋭い攻守の切り替えから「ダイレクトサッカー」と表現される戦術の主からの期待もどこか理解できてしまう。

 選手によって胸中に生まれた感情の表現は変わってくるものだと思うが、中島の表現としては「助けたい」となるわけだ。守備で助けるだけではなく、そこからゴールを奪うために走れるのが今の中島なのである。

 また、「自分はレイソルに行くんで」とサラッと切り替えてしまう選手ではない。1年生からトップチームに所属して力を付けてきた流経大でのラストシーズン。関東大学リーグ1部では中位に甘んじるなど不本意なシーズンを送っているチームに対する危機感や責任感も強かった。

 「筑波大とのダービーで負けてしまい、もう順位的にも『リーグ戦の優勝を!』とは言い辛い状況でもあって、チーム全体で気持ちを切り替えていくしかないですし、チームのムードを落としたくない。だから、少し割り切ってでも最後にみんなで笑えるように、冬のインカレで優勝できるようにチームを持っていきたい」

 中島は流経大で手にしたのは「メンタル」と答えるほど逞しく成長した。以前の中島は意思表示はほどほどなタイプ。どちらかといえば、シャイな青年だったし、少し遠くからでも気さくに手を振るような好青年。そのあたりがプレーにも出ていたように記憶している。

 だが、試合の中では周囲をDFに囲まれた状態から何度かフェイントを入れて、素晴らしいアジリティから状況を切り拓くチャンスメイクを見せるなど少しずつ「違い」も放ち出しているし、「サイド」と呼ばれるエリアは昔よりやや内側に定義されつつある風潮にもフィットしてくれそうなアイデアを持っている。さりげないインテンシティに流経大の血統を感じる瞬間も少なくない。獲得理由や中島のディテールについてはまた柏レイソル・李昌源スカウトにマイクを向けてみよう。

 そして、最後に中島へ「今の自分」について聞いた。

 「強くなりましたね、全体的に。自分でも『強くなったな』と実感する時があるんです。レイソルアカデミーを出て、流経大を選んで良かったなって本当に思うんです。自分はここに来て変われましたし、自分にも合っていましたね。流経大に来て良かったです。今も時々、中野(雄二)監督からは厳しい言葉をもらいますけど、いつも厳しいだけてなく言葉の中から愛も感じています。その中で育ちましたから。恩返しをしなくては」

 中島はそう話すと、駆け足でロッカールームに消えていった。その後ろ姿、特に足全体の発達ぶりにこの大学の凄みを見た。

 そんな中島と流経大に勝ってみせたのは筑波大学蹴球部の田村蒼生。

 この9月には来季からの湘南ベルマーレへの加入が発表されたことも記憶に新しいし、私のコラムを知っている読者には私がそれなり以上の視線を送っていたことはご理解いただけるだろう。この発表、私は本当にうれしかった。

 実は7月の時点で田村の柏レイソル加入の可能性はなくなっていた。

 「連絡をもらった時は冷静に受け止められてはいましたけど、ずっと『いつかまたマオ(細谷真大)やマサ(佐々木雅士)たちと一緒に!』とやってきたので悔しいですね。キャンプでも自分の良さをレイソルの中で出せたのかといえば、そうではなかったかなと思います。練習参加に呼ばれてホッとしてしまった部分もあったかもしれないし、今季の自分のパフォーマンスについても思うところはあります」

 そう話してくれたのは翌週に天皇杯での直接対決を控えたある日。細かな理由は本人とレイソルの間で共有できていれば私はそれでいいのだが、天皇杯で見せた集中力や感情表現の源はこの事実だった。

 ここで少しだけ厳しいことを云えば、「リーグ表彰を受けた昨季以上の出来を示せているのか・さらなる上積みはあったのか」という点においては、まだまだ努力が必要なシーズンであること。それらは田村も良く理解していたし、乗り越えなくてはいけない壁でもあった。

 ただ、出会った頃はまだランドセル姿だった、あの「小僧」がプロの目に留まったのだ。しかも、レイソルを含む複数クラブからの問い合わせを経ていたのだから。この経験は初めてのことではないが、何度傍らから味わらせてもらっても素晴らしい気分になるものだ。

 そのような時間を経て、湘南入りが定まり、さすがに肩の荷が降りたのか、流経大戦の田村は見違えた。躍動していた。上積みはあった。田村はこの半年間を回想する。

 「天皇杯を戦っていた自分たちの立場は『チャレンジャー』。自分が何をできて、何をできないかを知る機会になった。それからリーグ戦へ戻ったのですが、首位を争っている明治大学戦を除いては『追われる立場』の中にあって、また違った状況にあるんです。特にお互いに高いモチベーションでぶつかった明治との試合ではチームとして不甲斐なく、自分たちはまだまだ足りないなと。夏の総理大臣杯も攻撃陣がもうひとつに終わってしまった。その後にコーチの(戸田)伊吹が幅を持たせるようなトレーニングや修正を加えてくれて、徐々に結果が付いてきた。みんなが楽しめるようになった印象がありますね。相手に合わせるのではなく、自分たちがやり切るサッカーというか」

 今回、取材をした流経大戦では4ー0の完勝。見事にやり切った。田村は先制点となるPKを決めてチームを勢いに乗せただけでなく、試合終盤まで流経大陣内を切り裂く活躍を見せていたし、チーム全体で試合を支配していた。

 「今日の結果はチームの自信になる良い結果だと思います。練習でやってきたことがそのまま出せたので。楽しさの中に競争も出てきて、切磋琢磨できる環境が生まれている。そこが良い形で出た試合だったと思います」

 この日の躍動を見る限り、少し前の田村は見えない足枷を括り付けて戦っていたのかもしれない。「プロ入り」や「獲得オファー」というプレッシャーの足枷だ。その重みから解放された田村は、ドリブルやチャンスメイクにキレが戻り、少なくない課題を残してしまったゴールセレブレーション以外は随所に「違い」を放っていた。

 「自分のプレーに集中していたつもりでしたし、意識をしていないつもりでも、気持ちの何処かしらに不安があったのかもしれません。夏の大会中に湘南さんの話は決まっていたのに、大会では全くダメでしたし。その後に伊吹から直接強い言葉をもらって、自分たちへの期待を伝えてくれて。そんなことをしっかりと言ってくれる同期はなかなかいないですし、今のヘッドコーチという立場からの鋭い指摘があったので、『この気持ちに応えなければ』と思わされましたね」
 チームや仲間に恵まれての大学ラストシーズンのクライマックス、その手前で起こった湘南入りへのストーリーもなかなか痺れるものがあった。

 「4日間の予定で湘南さんにお世話になりました。練習に参加してはみたものの、それほどアピールに繋がっているような感触もなくて、『これはまずいな…』と感じながら最終日になって、『もう1日延長してみよう』と言ってもらえて。最終日にミニゲームがあったんですけど、自分なりに覚悟を決めて臨んだ結果、納得のいくパフォーマンスができて、その翌日には『すぐに正式なオファーが行くよ』と言ってくれました。自分にとってお断りする理由なんてありませんし、『ありがとうございます』と…あの1日がなかったら…スカウトの方やチームのみなさんに感謝しています」

 首位をいく明治大とは同勝点。残り試合はもう数えるほど。2連覇へのマッチレースは現在得失点差の争いとなっているし、「J内定選手」という色眼鏡でも見られる。証明すべきことはまだまだある。

 「憧れていたJリーグはもうすぐそこにあるし、特別指定選手にもしていただいているので、チャンスがあれば活躍できるように準備を続けています。だから、大会リーグの中でも常に『違い』を出していかなくてはという思いです。このまま勝ち続けてタイトルを獲りたいですね」

 今季も田村の素晴らしい結末を期待しているし、湘南で愛される選手になって、いつの日か細谷を呼び出して、美味しい食事と豪華な個室サウナに招待しなくてはいけない。

 ただ、これだけは言いたい。「蒼生、本当におめでとうございます」。

 中島と田村とは違う立場からラストシーズンのクライマックスを迎えようとしているのは筑波大学蹴球部ヘッドコーチの戸田伊吹。

 この日4回あったゴール後の歓喜も程々に数枚あるシステムボードを見つめて、スタッフや選手と議論。そして、数m前のピッチサイドへ歩き出す。そんな90分間。少し前よりその回数が増えたようにも思うし、気のせいか、少し痩せたようにも見える。

 リーグ戦では首位争いを展開して、天皇杯では心地良い旋風を巻き起こして、試合後のインタビューでは私たちのハートを撃ち抜くなど注目を集めるシーズン中盤戦だったが、夏の総理大臣杯では苦杯を舐めた。明治大学との首位攻防戦では相手の奇襲とインテンシティを打ちのめすことができなかった。

 そんな様子を見ていた分、「ヘッドコーチ就任初年度にしては上手くはいっているが、実は今、難しい時期にいるのでは」という目線で流経大戦に出掛けたのだが、私の穿った目をあざ笑うかの4発快勝。しかも、私が見させてもらった数試合の中でも、1番素晴らしい内容でライバルを寄せつけなかったのは天晴れ。

 チームの中でどのようなアプローチがあったのか、戸田に聞いた。

 「総理大臣杯までの戦いを振り返ってみた時に、FWにボールを収めてくれる選手かいるので、そこへ蹴っていく『コスパの良い』戦いを選んでいた。そのやり方を続けていた中で、『出ている選手たちのレベルを下げてはいないか?』と。『もっと選べるはずのものが選べなくなってはいないか?』と気づかされたのはあります」

 確かに今夏に見られた、秀逸な1トップ・元パリ五輪世代のFW内野航太郎のスケールに頼るようなロングボールは控えめ。中盤から丁寧にボールを動かしながら、サイドの個性を引き出して厚みのあるビルドアップから勝負に出るような崩しは流経大を慌てさせていた。かといって、ロングボールを否定せず「選べるサッカー」を展開。これらはおそらく田村が言った「幅を持たせるトレーニング」の部分から生まれた循環であろう。

 「それ以降、中央へ刺していくパスを意識して練習をしてきました。試合をしていれば、それが全てというわけではないんですけどね。選手たちの実力を鑑みれば、必要なトライでした。それができる選手たちが揃っていますから、『もう一度思い出そう』と取り組んできたんです。この2週間はそういった狙いを持ったトレーニングに時間を割いて、『コスパ』よりも『自分たちの追い求めてきたサッカー』に比重を戻してというように。『上手くいく・上手くいかない』は常にありますけど、結果もそうですし、面白いトライ自体はできているので、自分としては楽しいです」

 かねてから「選手たちがまたもっと上手くなってくれたら」という部分を大切にしてきた戸田らしいアプローチ。タレントを持ち合わせながらも、少し前には苦労していた下級生たちが逞しく結果に関わっていくや自信をつけていく姿を見るにつけ、どのような落とし込みがあったのかはつい気になってしまう。

 「もともと上手い選手たちばかりなので、持っている力を思い出させる作業というか、『こういうことができたよね、またやってみよう』というアプローチが増えているかもしれませんし、このチームは以前の『コスパ優先』のやり方を落とし込むより、本来のやり方に戻す方が良くなると思ったのもありますし、『その方が勝てる』という自信もありました。それらがアプローチの変化の理由です」

 これら、シーズン中の思い切ったシフトチェンジもチームの表情の変化も戸田にとっては良い経験。彼がこの道にこだわる以上、チームの現状を分析して、把握して、何を持ち、何を施すべきなのかを提示していく作業は永遠に続く作業でもある。「寝る時間がないんです!」ととことん打ち込んできた時期もあった。様々な選択肢の中から今回のシフトチェンジへ至る動機や受け止めを整理してもらった。

 「遡ると、自分たちとしては苦しい試合が続いていたんです。会場によってはピッチコンディションや選手たちのコンディションや色々な理由もありましたが、内容的にも思い通りにいかなかった。失点についてはセットプレーからの『1』しかないので、ボールを持たれながらも粘り強くやってこられたのですが、そこは『苦しくても失点をしない』という成長ですし、試合に勝つ為に必要な部分でもあるので、『夏の収穫』としてある。その収穫があるので、攻撃の見つめ直しにトライできる。時間を割ける。そのサイクルも夏の収穫ですね」

 ヘッドコーチとはいえ、ピッチやベンチには機会に飢えた同期の仲間たちがいるというストーリーの中にいれば、田村が戸田へ感じた気持ちだけでなく、別アングルのやりとりも存在するという。

 「あの場面でオレを使えって!」

 「分かった分かった。次は頼むよ」

 そんな直接的なやりとりも頻発するほどの個性とエネルギーがある、この独特な構造を持つチームが、見るからに素晴らしいシーズンを送り、今現在どんな感情を持っているのかを聞いてみた。

 「今年は天皇杯を経験しましたけど、そこで得たものが選手たちにどう影響しているのかは、自分個人としては上手く言語化できていません。だけど、物足りなさのような感覚を持っている選手やハングリーな気持ちが強くなった選手がいるのも事実としてあって。物怖じもしませんしね、むしろ、『足りないよ』って言うんです(笑)。その感覚はすごく良いことではあるけど、難しく、まだ分からない部分ですね。それらがもたらすものを理解するのはきっとこの先になるのかもしれませんね」

 なんせ「レアな立場」を任されている以上、中島や田村のように、戸田の「去就」についても気になるところだが、彼が進まんとしている道は決断と実行、先を読む力が求められる道。あまつさえ、選手からコーチへという戦略的な決断が今の戸田の立ち位置をこしらえている以上、次のステップに対しても自信と明確な狙いを持って選択することだろう。

 それよりも、今は”リーグ無敗”明治大とのマッチレースが目の前の課題。

 「目標はタイトル。そのために自分たちは勝つ続けるしかない。得失点差も縮められましたしね。そこはもう、コツコツと最後まで自分たちらしく戦っていくだけです」

 関東大学リーグも最終コーナー、秋の午後の溢れ日が美しい筑波大学第一グラウンドに再び歓喜の声が響き渡るのか。その際はどんな話を聞かせてくれるのか。楽しみにしている。

 中島に田村。そして、戸田も。素晴らしい大学ラストシーズンを過ごすことを願っている。

(写真・文=神宮克典)