2年7ヶ月に渡る「静寂」が止んだ 

レイソルコラム

 9月10日のアウェイ・浦和レッズ戦(4‐1●)はJリーグの声出し応援ガイドラインに則った「声出し応援適用試合」となり、中秋の名月が見下ろす埼玉スタジアム2○○2に柏レイソルサポーターの大声援が響き渡った。

「かしーわレイソル!」

 そのクラブ名、その愛情を口にできなかった年月に積み重なった思いを放つサポーターの姿には胸を打つものがあった。スタジアムの9割は浦和のサポーター。その圧力をも跳ね返すようなボリュームは痛快だった。


 試合は敗戦となったが、主将の古賀太陽選手は当日のサポーターの姿をこう回想した。


 「試合前に挨拶へ向かった時からサポーターの熱量が普段と全く違っていて、『こんなにも違うものなのか…』と。その思いを感じながら試合に臨みましたが、申し訳ない結果になってしまった」


 その古賀選手よりも近くで声援を受けた2年目のGK佐々木雅士選手にとっては、サポーターの声の中で試合をするのはプロに入って初めてのシチュエーション。佐々木選手は唇を噛みながら後悔を口にした。


 「小学4年からレイソルにいて、一緒に応援歌を歌って飛び跳ねたことがある身からしても、後悔が残る結果となってしまった。憧れていた光景の中に自分がいられたのに」


 2021年に加入したブラジル人MFドッジ選手は、佐々木選手と同じくレイソルサポーターの大声援を初めて体感した選手の1人であり、「平時」であれば、個人応援歌を用意されていたであろう名手だ。


 「ようやくJリーグ独特の応援を体感できた。彼らが常に我々を励まし、背中を押してくれる『12番目の選手』であることを確信しました。私たちはあの素晴らしい応援に相応しい結果を届けなくてはいけない」と感銘を受けたようで、その後に「『私は命懸けで戦うつもりだ』とサポーターに伝えてほしい」と付け加えた。レイソルサポーターの声は静かなる名手のハートに火を着けたようだ。


 ルーキーの真家英嵩選手はモニターでの観戦となったが、育成年代では同期の仲間たちと声を枯らしてトップチームを応援していた1人であり、その声の持つ意味を知る選手。


 「歌声は映像からも聞こえていました。『自分もいつかあの声援を独り占めするような選手に』とがんばっていますし、その思いもまた強くなりました。実はまだ小さな頃、チームメイトにジョルジ・ワグネル選手の歌をもじって応援してもらっていたので、思い入れだって強いんです」


 様々な人々の努力によって、取り戻しつつある「声」はただ夜空に響いたのではなく、計り知れないものをもたらすことを改めて目の当たりにした。


(写真・文=神宮克典