「至宝」マテウス・サヴィオをお忘れなく

レイソルコラム

ジェフユナイテッド千葉(J2)との「ちばぎんカップ」に快勝して幕を開けた柏レイソルの今シーズン。ルヴァン杯ではガンバ大阪に完封勝利。J1リーグ開幕戦ではコンサドーレ札幌と壮絶な撃ち合いを演じ、4ゴールを奪って勝点3を獲得。このままスタートダッシュを決めたいところだ。

江坂任やクリスティアーノ、瀬川祐輔といったアタッカー陣と最前線で格別な存在感を放つケニア代表FWマイケル・オルンガたちが織り成す迫力満点の攻撃は昨年のJ2のみならず、J1でも話題をさらっている。

その様子をベンチから見つめる1人のアタッカーがいる。MFマテウス・サヴィオである。

昨夏にブラジルの古豪フラメンゴからレンタルで加入したM・サヴィオは前述したアタッカー陣と抜群の連携を見せてJ1復帰に貢献。晴れて完全移籍となったが、今シーズンはここまでの3試合の全てにベンチ入りを果たしながら、出場はまだ叶っていない。

ゴール裏サポーターとの試合後の祝宴でも、笑顔をのぞかせつつも心から喜べていない様子は伝わっていた。札幌戦の翌朝、M・サヴィオにその胸の内を訊ねると静かに口を開いた。

「もちろん、プレーはしたいよ。でも、それは決して自分だけが持つ気持ちじゃなくてね、全ての選手がそう思っているはずさ。特に問題視することではないよ。毎日、献身的に充実したトレーニングができているし、自分のポテンシャルを信じているので、監督から出場機会をもらうことができたら、全力でチームに貢献するということを考えているからね。今はここまでの状況に一喜一憂することなく、その時が来たら自分の持っている力を注ぐだけだよ。前を向いてしっかりとトレーニングに臨むことが大切なんだ」

昨季であれば、スタメン出場でない場合は攻撃陣の交代のファーストオプションとなることが多かったが、今季は愛媛FCから加入したMF神谷優太が急浮上。神谷はトップ下や左サイドで起用され、リーグ開幕戦でも負傷した瀬川に代わり好パフォーマンスを披露した。厚みを増した攻撃陣の競争は激化しているが、M・サヴィオは冷静に状況を整理した。

「自分はまだ試合に絡めてはいないけど、チームは良い結果を出し続けている。それは監督の選択が正しいということで、今の自分ができることは、1人のプロの選手として、チームへの献身性を忘れないこと。チャンスが来た時に、だらけたり手を抜いたり、その姿勢を怠る選手が力を発揮できるはずがない。今のチーム状況からすれば、『次の試合へ向けて』というよりも、いつチャンスが来てもいいように毎日同じ気持ちで取り組んでいくことが求められていると思っているよ」

なぜ、出場機会を得られていないM・サヴィオにこのような質問を投げかけたかといえば、昨秋のJ2優勝が懸かった週にM・サヴィオはこんな話をしてくれていたからだ。

「幸運にも自分は試合に出られているけど、高い能力を持ちながらも出場機会を得られていない仲間たちもいて彼らの前向きな姿勢に感銘を受けているんだ。だから、自分たちは彼らの特別な思いを背負って相手に挑み、彼らの為にも勝利を掴むんだよ」

そんな考えを持つ彼のこと、無駄な振る舞いなどするはずはない。まだまだカレンダーの中の数試合が終わっただけ、希望を失う時期ではなく、挽回の時間が十分にあるからこそ、M・サヴィオは腰を据えて鍛錬に勤しむという。

昨年の活躍を知っていれば知っているほど、ピッチで躍動する姿が待ち遠しいところだが、M・サヴィオには新たなモチベーションも生まれているようだ。

「レイソルの勝利の為に、自分たちを支えてくれるサポーターの為に、全力を尽くして戦う気持ちは、昨夏に来日してから全く変わっていないよ。特に今年はサポーターが自分の為に歌を作って声援を送ってくれている。ウォーミングアップに集中しているけど、いつも試合前に歌ってくれているのは耳に届いているよ。とても覚えやすいメロディーだからすぐに覚えたし、気に入っているんだよ。『サヴィーオー!』ってね(笑)。アリガトウゴザイマス!」

「至宝」マテウス・サヴィオという贅沢なオプションをお忘れなく。

(写真・文=神宮克典)