「背番号20、中山雄太!ズヴォレ」 霧雨が吹き付ける東京・国立競技場。ブラジル代表との一戦に臨む日本代表の先発メンバーの中に中山雄太選手の名があった。ポジションは昨夏の東京五輪から務めている左SBだった。 実力に勝るサッカー王国・ブラジルとの対戦。W杯を想定した格上を相手に、日本代表がどのような戦いを見せるのかに注目が集まった。 中山選手は、ブラジル代表の右サイドアタッカーと対峙。右利きのネイマール選手や左利きのハフィーニャ選手ら世界的な名手たち。ブラジルの2列目は歴代「花形」が務めてきた。彼らの変幻自在のアタックに対して中山選手は見事に立ち回り、20回余り訪れた守備局面に於いて集中力を切らさず、破綻をきたすことはなかった。 「0‐1で敗戦」という結果による後味が覆い隠してしまってはいるが、中山選手個人の「守備者」としての可能性を測るうえでは上々の出来だった。守備のリスク回避という共通理解の下、攻撃は自重したが、本来は攻撃的な選手。その部分も「自分の中では解決している」と自信を見せていた。この夜は局面での1対1や速攻への守備対応に中山選手の3年半が詰まっていたように思うし、チームにとっても中山選手の守備は明らかな収穫だった。 「自分自身、『今までのすべてを壊してもいい』という覚悟でここへ来たので。いつか全く違うタイプの選手になっているかも知れませんよ」 今から3年前。オランダはズヴォレ市内のカフェで中山選手は自身の展望を話していた。そして、今回もまた3年半前の渡蘭について、「すべて捨てる気だった」と語り、「自分に納得したことはない」とも語るなど、相変わらず成長には貪欲。おそらく中山選手は引退する最後の瞬間まで納得することはないだろう。 この10ヶ月余り、「東京五輪からカタールW杯へ」という二度と体験しないであろう、激動のフェーズを過ごした。 「東京五輪に関して言えば、悔しい気持ちがあって、その悔しい気持ちは次へ繋がるエネルギーに変わりました。ただ、W杯の最終予選でも満足できたわけではないので、本戦に向けて、プラスαのエネルギーになりました」 そう振り返った中山選手に、渡蘭から東京五輪とW杯予選での転戦を経て、「W杯出場への思いと今後の展望」を聞いた。 「まず、W杯出場を狙える状況にいる自分を褒めたいですが、『成長』という基準で考えると、自分が本大会へ出場することが最終目標ではなく『出場して、活躍して、結果を残す』ということが現時点での目標なので、狙える立場がどうこうよりその先に掲げている目標達成に向け、現実的に地に足をつけて『何が必要で、何ができて、どこを伸ばさなければいけないのか』を日々整理してクリアにして、生活しています」 今のところ最も鮮明になった中山選手の成長は「守備のスケールアップ」と言っていいだろう。 奇しくも左SBは中山選手が2015年にプロデビューを飾った際に務めたポジションでもある。当時の日本代表選手を「股抜き」する大胆不敵な攻撃性で我々を驚かせた。 あれから約6年。見ているものはガラリと変わり、選手としても変貌を遂げたが、日々書き込まれては消し、また書き足されるウィッシュリストと、それを乗り越えるための貪欲な姿勢は変わらない。 中山選手は自分の両足で彼らしく、日本代表として立っている。 (写真・文=神宮克典)