試合が終わると、真っ直ぐゴール裏のサポーター席を見上げる。
サポーターの気持ちを全身で受け止める。自身が試合に出場していても、いなくても、ある時は沸き立つスタンドを笑顔で見つめ、またある時は厳しい叱咤激励に耳を傾ける。
「サポーターの声や表情、『気持ち』というものを自分たち選手が背負わなければと思いますし、試合に出ている以上は責任感をしっかりと持たなければならないので、サポーターの方を向くというのを意識しています。応援してくれる方々あっての自分たちなので。勝って、サポーターを笑顔にできると、いつも幸せな気持ちになりますね」
そう話すのは上島拓巳選手。今季、中央大学から加入したCBだ。
相手FWの頭上からの圧巻のヘディングや、柏レイソルアカデミーで培った戦術眼や技術など、プレーの熱さとモダンな能力を併せ持つが、そのすべては「気持ち」に裏打ちされているのだという。
「ヘディングにしても、『相手より先に跳ぶ』という基本的な部分も大切ですけど、『この1対1、勝つ』という気持ちで毎回挑みます。『勝ちたい』じゃなくて、『勝つんだ』という気持ち。ヘディングだけでなくパスやその他のプレーの場合も同じです」
その結果、3月のプロデビュー以来、順調に出場機会を増やしてサポーターからの認知度も高まった。 染谷悠太選手と古賀太陽選手、中村航輔選手らと編成する守備陣は今季のレイソルを間違いなく支えているし、「柏駅前にあるレイソルの大型ポスターに自分も選ばれたいですね。昔からあのポスターを見て育ってきたから。なるべく早く」とプロ向きな色気も覗かせていた、そんな矢先、チームは停滞期に突入。上島選手にもある疑問が湧いた。
「いったい今の自分はレイソルへ加入した当初の気持ちで毎日を過ごせているのか?」
その疑問と向き合った上島選手は、迷うことなく頭を丸坊主にした。身も心も無駄を削ぎ落として毎日を過ごしているという。
「理由は悪さをしたでも何でもなく(笑)、心機一転です。今後は『黒髪・短髪・背番号20』でやっていきますよ。『上島は丸坊主にしても変わらなかったね』と言われないようにと思いますし、まだ何も満足なんてしていない。『レイソルをJ1に』と強く思っていますし、それこそ日本代表に選出されるくらいのインパクトを残さないとプロになった意味がない。そう思っています」
上島拓巳、気持ちの良い野心的な男である。
(写真・文=神宮克典)