K太せんせいの放課後の黒板消し 88

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 初夏を彩る

 梅雨入りの報せ(しらせ)が聞こえ始めたかと思ったら、いつの間にかひと雨毎に夏の足音が聞こえる季節となりました。日本の初夏は空も衣も日一日と変化していくちょっと忙しい日々です。

その傍らで植物たちはたっぷりの雨と力強い陽射しを浴びて生命力を溢れさせていきます。トマト、ナス、キュウリといった夏野菜やブドウ、サクランボ、メロンなどの果物は、それはもうはち切れんばかりの瑞々しさで私たちの味覚を楽しませてくれます。

さて、この季節に雨のしずくを蓄えてキラキラと輝く花と言えば、大きな葉に負けないほどの大きな花の塊で咲き「手鞠花(てまりばな)」の異名を持つ紫陽花(アジサイ)が思い出されます。ご存知の通り土壌の酸性、アルカリ性の濃度によって花色を赤や青、紫に変える紫陽花は他にも「七変化(しちへんげ)」の異名を持ち、花言葉には「謙虚な美しさ」とともに「移り気」を併せ持ちます。

また、昔から美しい人の立ち居振る舞いや魅力を花にたとえた文句に「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」というものがあります。

芍薬(シャクヤク)は艶やかな印象とは裏腹に「恥じらい・はにかみ」を花言葉に持ちます。夕方になると花を閉じる性質や、英語の慣用句に「blush like a peony(芍薬のように真っ赤に染まる=恥ずかしがる)」とあることが由来のようです。

牡丹(ボタン)は「王者の風格(百花の王)」「高貴(壮麗)」「誠実」などを花言葉に持ちます。江戸時代中期の俳人炭太祇(たん たいぎ)の句にも「低く居て 富貴をたもつ 牡丹かな」と詠まれています。

百合(ユリ)は香り高い純白の花で、その花言葉は「純粋」「無垢」「威厳」です。凜とした佇まいや優しい香りから、女性の名前の中にもしばしば使われていますね。

面白いことに、この三つの花は全て俳句では「初夏」の季語として並んでいます。夏の始まりを迎えた風景の中に花々の姿を探してみてはいかがでしょう。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。