K太せんせいの放課後の黒板消し 58

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 あいさつは国境を越えて……

 メダルラッシュに沸いた東京五輪。選手の活躍に胸を躍らせ、重ねられた努力を知っては涙し、負けてもなお凜として相手を称える姿に尊敬を覚えた瞬間の数々は、今も心に残っています。

一方で、今大会が未曾有の感染症拡大と医療の逼迫を前に一年間の延期を経ていること、そして多くの制約と死に瀕する葛藤の中で実施された、過去に類を見ない祭典であったことも心に刻まねばなりません。事実、今この瞬間も多くの医療従事者の方々が命がけで私たちの命をつないでくださっています。

さて、オリンピアン・医療従事者の皆様と同様に世界に誇れる人々がいたことも忘れられません。それはボランティアの皆さんです。 

その活躍のほとんどは私たちの目には映りません。しかし、選手はもちろん、来日した関係者からの賛辞は、メディアやSNSによって世界中に発信されました。

ある海外キャスターは感銘を受けた出来事を次のように紹介しました。「競技場を去る際、ボランティアと大会関係者が同じフレーズを繰り返しています。東京を拠点にしているカメラマンが訳してくれました。彼らは全ての人に繰り返し繰り返し『大変なお仕事ありがとうございます。ゆっくり休んでください』と言っているのです。なんという文化なのでしょう」。

 これは絶えず海外の関係者に、ボランティアの方々が「お疲れ様です」と労いの言葉をかけ続けた姿を伝えたものです。

 日本語のあいさつには、実に多くの感謝や思いやりが詰め込まれています。「(ありがたく命を)いただきます」「ご馳走さま(食事の用意のために走り回ってくださりありがとうございます)」「ご機嫌よう(健康を祈っています)」等など。

普段何気なく使っているこれらのあいさつも、いつしか形式的になってしまってはいなかっただろうか。今一度想いを込めねばと、改めて気づかされたニュースでもありました。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。