今回おすすめする映画は、ベルギーの巨匠ダルデンヌ兄弟の新作で、第72回カンヌ国際映画祭にて監督賞を受賞した『その手に触れるまで』です。
ベルギーに暮らす13歳のアメッドはどこにでもいるゲーム好きな普通の少年だったが、尊敬するイスラム指導者に感化され、次第に過激な思想にのめりこんでいく。
やがて学校の先生をイスラムの敵だと考えはじめたアメッドは、先生を抹殺しようと企むが…。
本作の主人公はあらすじにある通り、どこにでもいそうな少年です。善悪の判断もままならない純粋な心に吹き込まれた“過激な思想”は一つだけの正義となり、他者を認めることを否定し、やがて事件を引き起こします。
過度な演出を抑え、淡々と描かれていく少年の変化には現実味があり、今も世界中で起こるテロの背景を垣間見ることが出来ます。しかし、ダルデンヌ兄弟はそこからさらに先、少年が自らの過ちと対峙し成長していく過程を見つめます。そこには他者との関わりや家族の存在があり、物語は誰もが自分のこととして受け止めることができる普遍性を帯びていきます。
一色に染まった少年の心に光は射すのか。その結末を是非スクリーンでご覧ください。
(新井貴淑)
キネマ旬報シアターにて、9月5日(土)~9月18日(金)上映予定