日本大学松戸歯学部放射線学講座
准教授 伊東 浩太郎先生 / 教授 金田 隆先生
日本歯科医師会が2022年に実施した調査によれば、半数以上の国民が歯科医院で定期検診を受けていないことが明らかになっています。口腔内に痛みがないと歯科受診を先延ばしにする方も多いと思いますが、口腔疾患の多くは無症候性で進行し、発見が遅れると治療が難しくなります。
無症候性疾患の危険性
無症候性疾患の代表例としては、虫歯や歯周病があります。これらは初期段階では症状がないため、気づかないうちに進行し、最終的には抜歯が必要になることもあります。また、歯周病は全身の健康に影響を及ぼすこともあり、糖尿病や心血管疾患と関連しています。
さらに、顎骨嚢胞(がくこつのうほう)や顎骨腫瘍(がくこつしゅよう)といった良性の病変も無症候性で進行することが多く、放置すると歯の偏位や神経症状などを引き起こす可能性があります。そのため、これらの無症候性の疾患は早期に発見することが重要となります。
画像検査の役割
無症候性疾患を早期に発見するためには、画像検査が重要です。パノラマエックス線検査はスクリーニング検査として広く使用され、歯や顎骨の全体像を把握できます。この検査で歯の根の炎症や埋伏歯、顎骨の異常が発見されることがあります。
CTは顎骨嚢胞や顎骨腫瘍などの病変を三次元的に捉えることができるため、病変の正確な診断に役立ちます。また、MRIは顎関節症や軟部組織の状態を詳細に評価できるため、軟部組織の疾患の診断に有用です。
これらの検査により、インシデンタルファインディングス(偶発的所見)が発見されることもあります。これは、検査の主目的とは異なる異常所見が偶然見つかることで、早期に治療が必要な病変が発見されることがあります。
見えないリスクへの警戒
「痛みがないから問題ない」との自己判断は、重大な口腔疾患を見過ごす原因となります。口腔内の健康は、自覚症状がなくても変化することが多く、定期的な画像検査を含む歯科検診が必要です。
特に、顎骨嚢胞や顎骨腫瘍などは早期に発見されれば比較的侵襲が少なく治療をすることが可能ですが、発見が遅れると治療の侵襲(しんしゅう)が大きくなることがあります。また、長い経過を辿ることにより悪性腫瘍に変化することもあります。
まとめ
口腔疾患は無症候性で進行することが多く、定期的な画像診断を含む歯科検診が不可欠です。パノラマエックス線検査やCT・MRIによる精密検査により、顎骨や軟部組織の異常を早期に発見し、早期治療を行うことが可能となります。これらのことから、画像検査を含む定期的な歯科検診を受けることを強くお勧めします。
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