オーラルフレイルについて最近の知見をご紹介いたします
日本大学松戸歯学部有床義歯補綴学講座教授 伊藤誠康先生
フレイル
はじめにフレイルについてお話します。フレイルは、健康と要介護の中間の間に位置付けられます。一般的に高齢期になると、加齢や疾病により身体的・精神的・社会的な様々な問題が出てきます。
高齢期においては、体の予備的な能力が低下することに伴って、ストレスに対して個人の抵抗力が弱まることで、歩行速度や握力の低下をはじめとした筋力の衰えによる日常生活の障害、さらに要介護の状態、ひいては死亡などの転帰に陥りやすい状態になります。
また、フレイルは、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力の低下(サルコペニアといいます)、低栄養などの身体的問題のみならず、うつや認知機能低下などの精神的な問題、一人暮らしや孤食、経済的困窮などの社会的な問題をも含んだ概念とされています。
フレイルは加齢に伴って少し衰えてきた体の機能を、生活習慣を見直すことで、健康な状態にある程度戻せることが分かっています。そのため、高齢期の加齢による機能低下を「年だから」といって諦めずに、ご自身の生活習慣を見直して、できることからフレイルの予防を行うことが大切です。
オーラルフレイル
オーラルフレイル(図)は、高齢期での歯の喪失や食べにくい、むせやすい、滑舌が悪いなどの口のまわりの“軽微な衰え”がつみかさなることによって、口の機能の低下の危険性が増加しているが、改善がまだ可能な状態をいいます。
オーラルフレイルの症状は、“生理的老化のはじめの一歩” でもありますが、口まわりの訓練などの適切な対策によって口まわりの器官の老化を緩やかにし、失われつつある口の機能を回復させる余地があることが分かっています。逆に、そのまま放置していると自然の衰え以上に口の機能の低下が進んでいってしまいます。ここが、他の生理的老化とオーラルフレイルとの大きな違いです。
また、オーラルフレイルであると、将来のフレイル、要介護認定、死亡のリスクが高いことが分かっています。そのため、口のまわりの”軽微な衰え”の放置から、より進行した様々な“口の機能の障害”および身体的・精神的・社会的フレイルやサルコペニア、低栄養といった障害の発症や重症化を予防することが大切です。
次回は有床義歯補綴学講座専任講師 五十嵐憲太郎先生「オーラルフレイルのチェック項目と対策」です。
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※引用文献:出所:オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント.老年歯科医学2024
公益社団法人日本歯科医師会「歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版