医療最前線Drリポート239

ふれあい毎日連載

少子化対策も妊婦歯科健診から

日本大学松戸歯学部 衛生学講座教授 有川量崇先生

日本大学松戸歯学部 衛生学講座教授 有川量崇(かずむね)先生

わが国の少子化問題

令和5年の出生数は75万8631人となり、明治32年の人口動態調査開始以来最少となりました。また合計特殊出生率も年々減少していることから、少子化問題への対応が重要なポイントとなっています。

少子化には様々な要因がありますが、近年、夫の家事、育児時間の不足が少子化に与える影響が指摘されています。厚生労働省が2015年に実施した「第14回21世紀成年者縦断調査」では、休日に、夫が家事・育児を行う時間が長いほど、顕著に第二子以降をもつ割合が増えています(図1)。

妊婦は口腔の重要性をあまり知らない

 前回のドクターレポートに記しましたが、妊婦は歯周病になりやすく、歯周病の妊婦は妊婦自身のみならず、早産や低体重児出産のリスクにもつながります。しかし、妊婦の中で、「妊娠中のむし歯・歯周病のリスク」については半数、そして「歯周病が及ぼす胎児への影響」については、1~3割程度の方しか知らないと報告されています。

 妊娠期の口腔内状況の特徴や胎児への影響に関する知識の普及は十分とは言えない状況です。

 

父親からも子へ むし歯原因菌の感染

 令和4年の女性の労働力人口は3096万人となり、労働力人口総数に占める女性の割合も45%と上昇を続けています。そのような背景から、母親に対する妊婦歯科健康診査に加え、父親が妊娠中から胎児や産後の乳児の口腔に対する意識をもつ必要があると考えられます。

ある研究では、幼児、未就学児、小学生の歯垢に存在するむし歯関連菌(S. mutansS.sobrinus)のDNAを調べたところ、51.4%が母親由来であり、31.4%が父親由来であったことを報告されています(図2)。このことから、父親も両親学級などに積極的に参加し、わが子のむし歯予防について理解を深めてもらう必要があります。

妊婦歯科による社会への効果

歯科における育児に対する父親の関わりを強く持たせ、親子で仕上げ磨きを含む口腔環境管理を実施することで子供の歯科疾患予防につながり、母親の家事、育児負担が減ります。さらに、育児等により生じた夫婦間などの家庭環境の隔たりなども改善し、結果として育児や少子化対策の改善にも繋がる可能性が期待できます。

つまり、妊婦歯科健診を起点とした夫婦で取り組む子育ての道筋を、歯科界が示すことが出来ると考えられます。家族の絆も口腔保健から。さらに、子どもの口腔環境の改善が永久歯の残存歯数が増加することに繋がり、将来的には健康寿命の延伸、幸せな社会生活の一助となることも考えられます(図3)。

 子育て支援も口腔保健から。家族の絆も口腔保健から。

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