DRリポート212回 

医療最前線Drリポート

歯周病とその治療

日本大学松戸歯学部長

歯周治療学講座教授

小方賴昌先生

小方賴昌先生

嫌気性菌の増殖とバイオフィルムの形成

 歯と歯肉の境界の歯周ポケット内のプラーク細菌が、歯周病のリスク因子のであることを前回説明しました。歯周病の発症と進行には、ポケット内のプラーク量の増減だけでなく、プラーク中の細菌の質の変化、空気を嫌う嫌気性菌の増殖が関係します。

さらに、ポケット内で細菌同士が凝集し、自身が産生する糖に包まれてバイオフィルムと呼ばれる集塊を形成すると、その中の細菌は白血球や抗体などの攻撃、抗生物質等から防御され、歯周病が慢性化する要因になります。

全身疾患への関与

 バイオフィルムが集塊のまま剥離し、気管を通って肺に達すると、肺炎の原因となります。一方、食道を通って胃と腸に達すると、腸内細菌叢のバランスを乱し(ディスバイオーシス)、全身に様々な症状が出現することがわかってきました。

ポケット内のプラークが増加すると、プラークに対する生体の免疫応答として、炎症がまず歯肉(歯肉炎)に、引き続き顎の骨(歯槽骨)や歯の根と歯槽骨を繋ぐ歯根膜に広がります(歯周炎)。

歯の周囲の炎症組織で病原体に応答して、インターロイキン‐1β(IL-1β)や腫瘍壊死因子(TNF-α)等の炎症性サイトカインが産生され、炎症の拡大や糖尿病等の全身疾患に関係することがわかってきました。

歯石の種類と除去法

 歯ブラシと歯間清掃用具等の使用で歯肉の炎症が軽減すると、まず歯石除去(スケーリング)を行います。歯肉の上の見える部分に付着した歯石を歯肉縁上歯石、歯周ポケット内の根面に付着した歯石を歯肉縁下歯石とよびます。

歯肉縁上歯石は、白色または黄色で柔らかく、超音波スケーラーや手用スケーラー等で簡単に除去できますが、歯肉縁下歯石は手探りでの除去になるため、完全に除去することは困難です。

ポケット内のプラークや歯石中の細菌毒素は、歯根表面のセメント質中に浸透しており、毒素の除去のために、歯根表面の洗浄や一層削り取る等の操作が必要です。これを根面の滑沢化(ルートプレーニング:SRP)とよび、技術と時間を必要とします。

 歯周炎による歯槽骨の吸収が少ない場合(軽度歯周炎)は、SRPが完了するとほとんどの症状は軽快します。

歯周外科治療を必要とするケース

 一方、プロービングポケット深さが6mm以上で、歯槽骨吸収が著しい場合(中~重度歯周炎)は、歯周外科治療が必要です。ポケットに近接した炎症歯肉を一層切除し、汚染された歯根面のSRPを行い、除染されたポケット内面と歯根面を密着させ、付着させてポケットを浅くすることを目的に歯周外科治療が行われます。

 歯周炎による歯槽骨吸収が認められる場合は、骨の一部を削除して形態修正をしたり、骨欠損部に骨移植を行う場合もあります。骨吸収部位は、炎症性肉芽で満たされているため、肉芽を完全に除去し、骨が再生するスペースの確保のために、歯肉と骨欠損部の間に再生誘導膜を挿入する組織再生誘導法が行われています。

■日本大学松戸歯学部付属病院☎047・360・7111(コールセンター)。

再生誘導膜を挿入した術中写真

組織再生誘導法の術前(左)、術後(右)のエックス線の比較