早川エジソン伝 ~Biografia de Edison~[後篇]

レイソルコラム

「レイソルさんから『ポルトガル語も英語もできる』というところで、『ケニア人のマイケル・オルンガを担当してほしい』と誘っていただきました」

2019年。早速クラブハウスの前で記者たちに自ら名刺を配るエジソン。加入当初から腰が低く、気さくでコミュニケーションは高く、オルンガを中心にヒシャルジソンやマテウス・サヴィオらブラジル人選手の取材の際にも力を貸してくれた。

「実は当時、『…オルンガって誰だ?』ってくらい、私は彼のことを知らなかった(笑)。ルーマニアやセルビア、ボスニアとかの選手の通訳経験はあるけど、アフリカ系は初めて。『英語だから大丈夫だろう』と思っていたら、実は最初の数ヶ月はミカが何を言っているのかよく分かっていなかったんです(笑)。最初はすごく大変だった。お互いの意思疎通が図れるまでは時間が掛かりましたね」

オルンガのとてつもないサクセスストーリーは多くのサッカーファンにとってまだ記憶に新しく、これからも強烈に残り続けるだろう。

エジソンは、オルンガがゴールをすれば選手たちと一緒に、あるいは選手より先に、ピッチサイドまで駆け出して祝福した。長身のオルンガとその横にいる愛らしい中年男性という組み合わせも何とも良かった。その様子を見た柏レイソル・宮本拓巳主務は「エジソンって『天使』みたいな存在なんですよ。分かります?」と真顔で言っていた。

選手たちと肩を組み、勝利のダンスをする姿もお馴染みだし、ある遠征では到着後のバス移動に遅れ、空港に取り残されたこともあるというから愛らしい。思えばブラジル人選手と記者が揃っているところに後から慌ててエジソンが駆けつけることもしばしばあった。

オルンガが話せばエジソンがその言葉を我々に伝えてくれた。ゴール裏やミックスゾーン、タブレットの向こう側でも。余りにも感情が高まって、「エジソン自身の感情を伝えているのでは?」と思わせる瞬間もあったがこのパッションこそがサポーターにも愛される理由だ。

「ミカはレイソルのJ1復帰に貢献して、最終節では8点も取ってくれて、みんなに注目されましたね。その彼の陰にいる私という関係でした。2020年はパンデミックになったけど、ミカがMVP・ベストイレブン・得点王の3冠を達成してくれたのがサポート役として本当にうれしかった」

そして、通訳者として最高の舞台にも寄り添った。2020年のJリーグアウォーズである。

「アウォーズは私の通訳人生の中でいちばんの晴れ舞台でした。メインはミカですが。その表彰に私が同行できるのが光栄でした。これからまたミカのような選手が現れるには時間がかかると思いますが、またああいう舞台を見てみたいなと思います」

造船の仕事をしていた時期を除くと、約21年の通訳者キャリアとなるエジソン。山あり谷ありのキャリアの中で気になることがあった。

「自分も『レイソルでプレーしたことがある選手と縁があるな』と思っていましたけど、まさか私もレイソルで仕事をさせてもらえるとは思いませんでした(笑)」

公文氏、呂比須氏、ネルシーニョ監督、曺監督、井原正巳コーチ、レアンドロにドゥドゥ。冗談ではなく、長い年月をかけてまるで導かれるようにレイソルに来たように思えてしまう。そしてさらに懐かしい名前が飛び出す。

「印象に残っている選手を挙げるなら…昔の選手ですけど、ベンチーニョ。抜群に上手かった。さらにレイソルと縁のある選手で言えば、アレックス。外国人選手と仕事をしたのは彼が最初で、彼は運転免許を持ってなかったので5年間運転手やってました」

エジソンはレイソルをこのように見ていたという。

「レイソルのクラブカラーは『黄色と黒』ー。しかし、私にはセレソン(ブラジル代表)の『黄色と緑』に見えていました。常に素晴らしいブラジル人選手・スタッフが在籍しているクラブ。カレカ、ミューレル、エジウソン、ザーゴ、ベンチーニョ、フランサ、ジョルジ・ワグネル…『元セレソンのすごい選手が獲得できてうらやましいなぁ』と思いながらレイソルを見ていました。ブラジル人文化が根付いているクラブっていう感じがありましたね。最初は『自分がレイソルってどうだろう?』って思いました。対戦チームとしての感覚しかなかったので。サッカー専用スタジアムで距離も近いし、サポーターも熱狂的で威圧感もあるから、『味方になってよかったな』と。実際にクラブや選手、スタッフ、サポーターにも、私がそれほどの仕事をしてなくても、温かく受け入れてもらえたと感じています」

今は全身でレイソルを愛し、レイソルの為に選手と共に戦うエジソンは、「サッカーに愛された人」なのかもしれない。

「元々がサッカー経験者というのもあったし、『ブラジル人=サッカー好き』っていうのもある。家族がいるから職業を選んでいられない状況でもあったんですけど、なぜか巡り巡ってサッカーに戻って来られた。これが偶然なのか必然なのかは私には分からない(笑)。いつまでできるかわからない仕事ですけど、好きなサッカーの仕事をできるのは幸せだし、神様に感謝しないといけないです」

まさかの残留争いに巻き込まれている2021年のレイソル。今季はまた新たに4人のブラジル人選手とメディカルスタッフが加入した。彼らは徐々に能力の一端を見せ始めてはいるものの、今後さらに活躍につなげるためにはエジソンら通訳者たちの力が物を言うのは間違いない。

「クリスやヒシャ、サヴィオたちはもう日本のことよく分かっているし、彼らは自分の力で活躍できますが、今はまず、今季入団したブラジル人選手たちがレイソルで力を発揮できるようにサポートしてあげたいですね。もしも、それができたのなら私の役割がひとまず果たされたことになるんじゃないかと感じています」

ブラジル人選手を中心に各クラブの重要パーツである外国人選手たちと寄り添い続けられる理由を知った。

レイソルに辿り着き、はや3シーズン。選手やスタッフ、ファンやサポーター、私たちメディアの人間たちからも愛され、欠かせないキャストとなっているエジソン。サッカー界広しといえど、スタンドからゲートフラッグを掲げ応援される通訳者は、エジソンくらいしか見当たらないし、ある時は「ファンサービス」が長引く日もあった。その様子を見届けたサヴィオは「It ’s like a star!」と笑っていたこともあった。歴代の所属クラブとの対戦では試合後に応援席へ一礼。大きな拍手を受け、取材エリアでは国籍を問わず選手たちがエジソンの元を訪れることも多い。

「私が人気者?いやいやいや、私はミカの付属品ですから(笑)」

エジソンはそう笑顔で謙遜したが、応援歌ができても不思議ではないその存在感は通訳者の領域を超えている。

(写真協力:柏レイソル)(文=神宮克典)