満開の桜とともに始まった新年度がひとまず落ち着きを見せるころ、早ければ一回目の席替えが行われることがあります。新しいクラスでは初めは番号順で並んでいる生徒たちですが、互いの名前や人柄が認識され、日直や係、委員会活動などを含めた生活リズムが安定したら、席替えの一手が打たれます。
席替えには環境をシャッフルしてより仲間の繋がりを深めたり、教室の見え方を変えて新鮮な気持ちで授業に臨み、集中力を高めたりするなど様々な目的がありますが、生徒達にとっては一大イベント、ワクワクドキドキの運命の時間です。
阿久悠氏作詞の楽曲『学園天国』では「あいつもこいつもあの席をただ一つねらっているんだよ」「運命の女神様よこのぼくにほほえんで一度だけでも」と必死の心情が表現されていますね。ストレートに「勉強する気もしない気もこの時にかかっているんだよ」とも。
おそらく多くの席替えはくじ引きで行われるため「運命」にかけているのでしょう。窓側や後ろの席は今も昔もやはり人気です。せっかく仲良しが並んでも、授業中のおしゃべりが過ぎれば離されてしまうことも。
給食や清掃、授業でのグループ活動などを一緒に行う五~六人組の「生活班」をつくることもあり、その場合は班の中での席順は話し合いで決めることもあります。班長さんの腕の見せ所です。
実際には、「活動班」と呼ばれる理科の実験用の班があったり、体育の種目が変わる度にチームが作り直されたり、遠足や修学旅行での「行動班」が編成されたりと様々に形は変わるので、席替えだけが全てではないのですが…。
教室という空間での自分の居場所には誰しもが自分にとっての天国を望むようです。先生から見えにくいとか、好きな子のそばとか、空が見えるとか……その証拠に『学園天国』の二番を。「二枚目気取りの秀才やあの嫌な悪党番長も胸はずませ待っているどの席になるかー」
■K太せんせい:現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。