DRリポート213回 

ふれあい毎日連載

歯周病とその治療③

日本大学松戸歯学部長

歯周治療学講座教授  小方賴昌先生

歯周組織再生療法とは

小方頼昌先生

歯周組織再生療法とは、歯周炎によって吸収した歯槽骨および失われた歯根膜と歯根表面のセメント質を再生させる手術法です。

骨移術、再生誘導膜を使う組織再生誘導法、ブタ歯胚から抽出したタンパク質が主成分のエムドゲイン®ゲル、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF2)が有効成分であるリグロス®を応用した方法等があります。

歯周炎の骨欠損は、歯と歯の間に垂直性に生じることが多く、骨欠損部歯根周囲の残存骨壁数が2~3壁性の垂直性骨吸収部位が歯周組織再生療法の適応です。

エムドゲイン®ゲルによる歯周組織再生療法

エムドゲイン®ゲルは、使用開始から20年以上経過していますが、副作用等の報告は無く、定評のある歯周組織再生材料です。加熱後シリンジに填入されて発売されています(図1)。

エムドゲイン®ゲルの写真

術式は、フラップ手術と同様で、歯肉の切開と剥離(骨表面から骨膜を付けた歯肉弁を剥がす術式)、骨欠損部の肉芽除去、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行い、歯根面を24%中性EDTAまたは10%クエン酸で処理し、生理食塩水で良く洗浄後、歯根面が血液や唾液で汚染される前に、エムドゲイン®ゲルを歯根表面に塗布および骨欠損部に注入後、縫合します。止血が確実であれば、歯周パックは使用しません。エムドゲイン®ゲルを使用した歯周組織再生療法は自費診療です。

リグロス®による歯周組織再生療法

リグロス®は、遺伝子組換え技術で作られたヒトFGF2を有効成分とする歯周組織再生剤です。FGF2は、線維芽細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、上皮細胞等の創傷治癒に関与する細胞の遊走と増殖を促進します。臨床試験で、褥瘡(床ずれ)や皮膚潰瘍に対する有効性と安全性が認められていましたが、2001年から、フラップ手術を行う慢性歯周炎患者を対象として約1000名の臨床試験が行われ、歯槽骨の新生など歯周組織再生に対する有効性と安全性が確認され、2016年9月に歯周組織再生剤「リグロス®歯科用液キット」が承認されました(図2)。

リグロス®歯科用液キットの写真

リグロス®は、投与直前に手順書に従って薬液を調製します。フラップ手術と同様の術式で、歯肉の切開と剥離、骨欠損部の肉芽除去、SRPを行い、生理食塩水で十分洗浄後、血液又は唾液で汚染される前に歯根面に塗布および歯槽骨欠損部にリグロス®を注入し、縫合します。止血が確実であれば、歯周パックは使用しません。こちらは健康保険適用です。

歯周組織再生療法前の歯周基本治療の必要性

歯周組織再生療法のために、紹介で来院された患者さんの多くは、早期の手術を希望されますが、歯根面への再生剤の塗布時に止血が確実であることが、再生療法の重要なポイントであるため、術前に確実な歯周基本治療を行い、炎症を軽減させておくことが必要です。

しかし,麻酔下でSRP等を過度に行うと、骨欠損部に歯肉退縮が生じ、歯周再生療法後に歯槽骨の再生するスペースがなくなるため、歯肉退縮が、なるべく生じないように配慮した歯周基本治療の実施が必要になります。

■日本大学松戸歯学部付属病院☎047・360・7111(コールセンター)