中澤雪城(1808-1866) 瓶史 20.2×608.5㎝ 紙本墨書 1巻
コロナ禍の3年間、在宅での趣味に没頭した方は多いのではないでしょうか。そんな日常を感じさせる作品をご紹介します。『瓶史(へいし)』とは明の袁宏道が書いた、いわゆるハウツー本で、瓶花(へいか)(花瓶に生けた花。生け花のこと)を楽しむ作法が十二か条にまとめられています。中澤雪城はこれを、一条ずつ書体を変えて書き、巻頭に井上竹逸(1814-1886)らの画を配して一巻に仕立てています。
玉川と呼ぶ人物に贈呈したようで、写真はその後書部分です。これが書かれた安政5年(1858年)は江戸でコレラが流行し、多数の死者が出ました。幸い雪城の縁者には罹患者がいなかったようで、友人と小宴会を開いたり、書画や花を観賞して楽しんだりして充実の一時を過ごしたようです。心の充電をしながら書を楽しむ雪城の至福の一時がこの作からは感じられます。開催中の幕末明治の書展で展示中です。(学芸員 山﨑亮)
(大意)
安政5年の秋、江戸で病が大流行しました。8月上旬から9月4日までで万を超える死者が出ました。わが家は一族揃って無事で、日々友人と小宴会をしたり、書画を批評したり、花を観賞して平穏に過ごしました。晴れた日にふと袁宏道の『瓶史』の十二か条を書きました。玉川さんに進呈します。お元気ですか。