冬の風物詩として知る人ぞ知る存在なのが、シモバシラに咲く氷の花。シモバシラは山地に生えるシソ科の多年草で、冷えこんだ冬の朝、枯れた茎にまるで白い花が咲いたかのように氷がつきます。高尾山の自生地が有名で、ニュースでもよく取り上げられます。
では、どうしてシモバシラの枯れ枝に氷がつくのでしょうか。初冬の頃、茎は完全には枯れておらず、まだ水を吸い上げています。そこに強い冷え込みがくると茎の中の水が凍結します。水は凍ると体積が増えるので、茎を突き破って外に出てきます。これがシモバシラの枯れ枝につく氷の正体です。冷え込みのたびに「氷の花」は姿を現しますが、やがて茎はボロボロになり、氷の花もできなくなります。わたしの観察では-3℃以下まで冷え込むとシモバシラに「氷の花」ができる可能性があります。
ところがシモバシラは東葛地区には自生しておらず、残念ながら散歩道で見られる存在ではありません。しかし「氷の花」自体はシモバシラに限った現象ではなく、さまざまな草に見られます。特にシソ科、キク科、タデ科、ヒユ科などは要チェックです。
園芸植物ではサルビアの仲間にできやすいことが知られています。ただしできやすい種類とそうでない種類があります。夏花壇の定番、真っ赤なヒゴロモソウはできにくいのですが、ベニバナサルビアにはわりとよくつきます。他にもペンタスやイエギク(いわゆる栽培菊)などにも時折見られます。
野草の中で最も観察しやすいのは、先月も登場したひっつき虫のコセンダングサです。コセンダングサはシモバシラに負けないほど見応えのある氷の花を咲かせることがあり、侮れません。また近年市街地を中心に増加傾向にある外来種のナガエコミカンソウも、冷え込みの強い場所ではわりと派手に氷の花を咲かせることがあります。その他、ハキダメギクやイノコヅチ、キンミズヒキ、イヌホオズキなどは比較的できやすい傾向があります。
初冬の風物詩と書きましたが、近年は温暖化の影響か、「氷の花」の季節が年明け以降にずれ込む傾向が目立ちます。さらに温暖化が進んで「氷の花」が見られなくなる、なんてことにならなければいいなとは思いますが…。
わぴちゃん(岩槻秀明)プロフィール
気象予報士。自然科学系のライターとして植物や気象など自然にまつわる書籍の制作に携わり、著書は20冊以上におよぶ。千葉県立関宿城博物館調査協力員、野田市史編さん委員会専門委員なども務める。宮城県生まれ野田市育ち。