比田井南谷《書の力 第43回》

ふれあい毎日連載

「作品67-11」 (1967年に書いた11番の作品という意味)

昭和42年 個展  一面  73.0×103.0 比田井南谷   

成田山書道美術館蔵

現代の書において、「前衛書」や「墨象」と呼ばれる分野があります。その幕開けは、1946年(昭和21年)に比田井南谷(ひだいなんこく)が発表した心線作品第一「電のヴァリエーション」(千葉市美術館蔵)です。

古代の書体「古籀」(こちゅう)に着想を得て、一見文字とはとらえにくい書を、公の場で作品として発表したのです。やがて多くの書家が触発され、書の芸術運動は伸展します。今回は日本書道史に色濃く名を刻んだ南谷による、当館の収蔵作品をご紹介します。

こちらは中国漢代の木簡、居延漢簡(きょえんかんかん)にある人の顔のような符号をヒントにして書いたと言われています。鳥の子紙を貼り、地塗りを施したキャンバスに、古墨で書き、ニスを上塗りして仕上げています。

南谷は、鍛錬された線にこそ書の芸術的本質を見出せるとし、用材は単なる媒体に過ぎないと主張しました。その理論を立証するかのように作品を制作していきます。たしかに抑揚や穂先の流れをはっきり表現することに成功している作品です。

さて、「前衛書」は文字から完全に離れたような表現も見受けられます。読まない「前衛書」は、文字を書かない書として捉えられています。しかし、例えば今回の南谷の古籀や居延漢簡に端を発する「前衛書」は、そのように言い切れるでしょうか。

「前衛書」が公的な場で示されてから2026年で80年が経ちます。当館では来年、そうした書の世界の軌跡をたどる展覧会を企画いたします。

現在開催している毎日書道展「墨魂の群像」に紹介される、「前衛書」の二世代として活躍した稲村雲洞(いなむらうんどう)は「二十一世紀に向けて前衛書はより純粋芸術化に至るだろう」と述べました。現代の書表現の幅広さを、ぜひ展覧会場で味わってみませんか。(学芸員 谷本真里)