模写本《書の力 第29回》

ふれあい毎日連載

模写本 徳川家康(1543-1616)熊野懐紙(くまのかいし)

33.8×50.4㎝ 紙本墨書 1幅

丸みを帯びた扁平な字形をとり、字と字を繋げずに書いたこの作品は、徳川家康が藤原定家の熊野懐紙を手本として手習いとして書いたものだと考えられます。

熊野懐紙とは後鳥羽上皇の熊野詣(くまのもうで)の折に開かれた歌会で各々詠んだ歌を書いたものです。

手本としたであろう藤原定家直筆の原本は今のところ見つかっていませんが、定家独特の書きぶりが色濃く出たこの作品からは家康の定家の書への傾倒が十分に理解できます。

藤原定家の血族である冷泉家を中心に受け継がれてきた定家の書風が、江戸期に盛行したのは天下人である家康自らがこの書を愛好したことも大いに影響したのでしょう。

書はそれを紡ぐ人たちによって受け継がれてゆくのです。(学芸員 山﨑亮)

【釈文】

詠河邊落葉和謌

左近権少将藤原定家

そめしあきをくれぬと

たれかいはたかはまたな

みこゆるやまひめのそて

旅宿冬月

いはなみのひゝきはいそく

たひのいほをしつかに

すくるふゆの月かけ