特別寄稿:「4の真ん中」-古賀太陽 

レイソルコラム

 ある時、古賀はこんなことを言ってきた。

「CBをやりたいんですよ。『4の真ん中』を」

 それは今からそう遠くないシーズンの途中。この頃の古賀は常に出場メンバーの中に名を連ね、たくましくプレータイムを重ねていた。ポジションは主に3CBシステムの左CBを主戦場としていた頃。

 古賀が言う、「4の真ん中」とは4バックシステムの中央の2人のCBのこと。こちらからすると、少し驚いたが、左CBでたくましく戦い続ける姿を見るにつけ、妙に納得した青写真だった。

 さながら、「鉄人」の如くJ1リーグを戦ってきた中で得た自信も、東京五輪を目指していた年代別日本代表合宿から持ち帰ってきた刺激や感覚もあっただろう。実に休みなく実戦経験を積んでいた中で得た研ぎ澄まされた感覚が求めたのは「4の真ん中」というポジションだった。

 育成年代でも 、CBを務めた記憶はない。

 今から10年前、背番号2番を付けた古賀は体格的にも華奢で、著しく行儀も良かった。サイズがあって、ボールの持ち方が他者と異なり、両足のキックそれぞれがユニークな選手。どうしても、柏レイソルでプロになって欲しい名前を持っている。そんな「逸材」だった。

 古賀のプレーを一目見れば、その世代の中でも優れた選手の1人で、年代の顔役であるとすぐに分かる選手だったし、ユース年代ではいわゆる「飛び級」で並み居る先輩たちと年代の最前線を戦う姿に異論はなかった。2016年7月に、極めて稀な形でトップチーム昇格が発表されたのは古賀が持つ将来性とクオリティの証明でもあった。

 だが、それらは柏レイソルアカデミー時代にSBとして得た評価。各年代で左SBとして成長してきたが、柏レイソルでのプロデビューも初スタメンもポジションは右SB。アビスパ時代も基本的には左右のSBで起用されており、実質的なCBとしての起用となると、アクシデント的にプレーした機会を除くと、2019年のネルシーニョ氏との出会いを待たなければならないのだが、それでもまだ「3CBの1人」としての起用が中心だった。

 今季は古賀にとっての「4の真ん中」デビューシーズンだった。CBの経験値としては実はまだ40試合ほどという事実が、少し意外なほどしっくりときている。

 そんなシーズン終盤の日立柏サッカー場。練習を終えた古賀に「あの時、なぜCBを求めたのか?」と投げ掛けた。

 いつものようにマイクを向けた私の中には「4の真ん中を」と宣言したあの当時の会話の記憶と共に明確な「ベストアンサー」があった。

 すると、古賀は手に持ったスパイクを地面に置きながら、間髪入れずベストアンサーを口にした。

「…操りたいんですよね」

 正解である。

 そして、そう切り出してからこう応えてくれた。言葉を選ばす、特別何かのフィルターに掛けずに事の真意を語る時の古賀の声量はやや上ずる。同時に少しだけ上半身に力が入る。 

 「まず、SBはCB以上に色んな局面に関われるポジションで、ビルドアップもチャンスメイクも関われるポジションですしね。その楽しさはあるけど、自分の特長的にも『チームを前進させる作業』はレイソルアカデミー時代から得意だったし、自分はそこで最も『違い』を出せる選手だと思うので。CBってポジションは試合全体を動かせるし、相手の陣形も操れるじゃないですか?3CBやSBでもそれは可能だし、自分なりにはやってきたつもりではありますけど、CBの位置からの方が、自分の1本のパスやボールの持ち方1つで『相手を操れている感覚』があるんですよ。あの感覚、自分としてはすごく好きですね。そこでこそ、自分の良さも活きるって思うので」

 「利き足はシチュエーション次第」ー。

 そんな言葉を添えたくなる稀有なスペックを持つ古賀らしい感覚。

 一度、ボールを受けて、左右の足でボールを持ち替える。あるいは左サイドの選手にパスを放ち、ステップバックして、もう一度ボールを受ける。ビルドアップでよく見る古賀のムーブは「操り」の一端。

 もしも、そのムーブを相手が察知したなら、涼しい顔をして、優雅なドリブルで15mほどボールを運ぶ「ドライブ」だって秀逸だ。

 角度を作ったり、スペースを広げ直し、高嶺朋樹ら中盤のチームメイトを呼び込み、パスコースや陣形のそのものの選択肢を増やす。そのムーブを繰り返しながら、連動した細谷真大やマテウス・サヴィオの動き出しを促すことも。

 守備者だが、攻撃的な発想で試合に臨んでいるのが伝わってくるのも実に古賀らしい。

 この数年の間も様々な変遷を辿った布陣で戦ってきた中でも、求めるイメージをピッチで披露できているあたりには強い意志と自信を感じるのだが、ここで古賀の言葉を借りると、CBはSB以上に守備局面に晒される。守備こそCBの醍醐味だと考えるCBの選手を否定する気は無いし、ボール保持率が80パーセントを超えるようなクラブにいようとも、必ず守備局面というものは訪れる。

 守り方を徹底的に整備して、攻撃に出ていくことでここまで戦ってきた「レイソルの守備者」としてのここまでについて話を向けた。要するにCBとしての守備の話だ。

 「ずっと、空中戦を得意としてしきた選手ではないですが、試合や回数を重ねてきて、以前よりヘディングの勝率にも手応えがありますし、自分の中でも変化を感じています。前へボールを奪いに行くところやそもそもの部分というか、『CBは局面によって、どこに立っているべきなのか』も理解してきたところです。今季、やっと『4の真ん中』をシーズンを通じてプレーして、ようやく正しい感覚を掴めてきたつもりですし、守備時に於いての『予測』や『ポジショニング』で違い』を出せているとも思っています。自分の特長を理解して活かしていこうという」

 相手チームを操ろうにも、独自の「違い」を放とうにも、ボールを奪わなくては話にならないことは百も承知。その術への開眼を口にした古賀に続けて、「守備時に予測やポジショニングで『違い』を出す」。そんなCB古賀太陽の理想とは?そんなアングルから改めて迫ってみた。すると、再び上半身に力感が生まれた。

 「そうですね。理想としては…出来れば、『全てをクリーンに済ませたい』というか、相手がボールに触れる前に、グシャッと潰して奪うより、相手と接触することなくボールを奪ってしまいたいんですよ。ただ、毎回はそうはいかないし、それより最後のところでのシュートブロックなどが自分には足りていないというところが常に頭の中にある。場数や経験が物を言う部分ではありますけど、『最後は太陽が触っている』って印象が残るくらいにならないとは思っています。ワンくんには助けてもらっていますし、ソメくんからもたくさんの影響を受けました。その意味で自分なんてまだ『ペーペー』ですよ」

 どこまでも古賀らしい理想が並んだ前段と高まるCBとしての自覚を含んだ次の理想のイメージとも言える後段。その後段のイメージとしては彼が現在パートナーを組む機会が多い犬飼智也の名と染谷悠太(柏レイソルアカデミーコーチ)の名を挙げた。

 「あの2人はシュートを打つ選手の前に入り込んでしまえるところがすごいんですよ。前に入ってシュートを簡単に打たせないから。その反応の速さはすごく憧れています」

 両選手共に接近戦でのたくましさは印象的と言えるし、「最後にボールを触っている」選手。サイズ感も似ている。そう古賀は話した。

 そして、もう1人の守備者の名前が挙がった。柏レイソルのOB鎌田次郎(品川CCコーチ)である。

 ルーキー時代の古賀は鎌田に怒られ続けた。とにかくもうすごかった。共に出場すれば、古賀の右斜め後ろから「太陽!」と叫ぶ鎌田のコーチングが飛んできた。それこそワンプレーごとに立ち位置に注文が付いた。

 「あの頃、次郎くんに言われ続けてきたこと…本当に辛抱強く自分に付き合ってくれましたよね。今になって次郎くんと同じことを感じることや伝えていることもあって。全く同じことを周囲の選手たちに要求していることもある。あの頃に言われていたのか、いなかったのかで、今の自分の姿は違うはずです。いつだったか、次郎くんからは『太陽だから言っているんだよ』と話してくれたこともあるんですけど、今になって沁みてきているんですよね。すごく大切なことを教えてくれていたんですから」

 先日、日立台へ訪れた鎌田に改めて話を聞くと、「絶対に必要なことだったからね。あの時の太陽には。自分はDFとして必要なことしか言ってない…嫌われてないといいけどね」と笑っていたが、当時の古賀といえば、少し混乱はしていたが、「厳しい時もあるけど、言ってもらえないよりはマシですよ」と言っていた。そう記憶している。

 古賀選手と鎌田選手のストーリーを掘り返した数日後に鎌田選手が日立台へ現れたのも実に素敵なストーリーだが、タイプ的には似ても似つかない両雄に流れたタイムラインは今の古賀選手を語る上で有益なものだと思う。

 そう、今季の古賀はピッチでチームを鼓舞する姿がよく見られる。鎌田が乗り移ったとまでは言わないが、その他にも以前には見られなかった所作が見られる。

 それはある選手が「太陽って前から試合中にあんなに喋ったっけ?」と試合中に驚くほど。

 今の古賀は「4の真ん中」である前に、レイソルのチームキャプテンである。2020年にネルシーニョ氏がメンバー表の古賀の名を指差して、「キャプテンは太陽だ」と指名され、初めてあの腕章を巻いていたし、昨季も「ほぼキャプテン」だった。

 言わば、「借り物」だったはずの腕章も、今では格段にしっくりきているのだが、今春、正式にキャプテンに就任するにあたり、「チームを常に仕切るか良い距離感でチームを見るか、考え中なんです」と模索していた。その後、古賀の中でどんな変化があったのか、マイクを向けた。

 「外から見たら、『キャプテンらしくない』と言われたりするのかなとは思いますけど、常に良し悪しの区別をしてチームにアプローチしています。いつもみんなの輪の真ん中にいるようなどっしりとした『キャプテン像』ってよくあるのかもしれないですけど、いきなり自分がそれをしてもね、絶対違和感があるはずだから、少し離れたところからチームを見て、すべき指摘があれば、すぐにする形でやってきたつもりです。ありのままの自分の姿でチームを整えるような、『外からものを見て、冷静に物事を判断するキャプテン』。簡単に言うと、そのイメージを思い描いているんです。理想ですけどね」

 チームがあるだけ、キャプテンは存在するのだから、様々なアプローチがあることは尊重する。全てのキャプテンが常に髪を振り乱して、スタジアムに響き渡るような雄叫びを上げながら、チームの先頭に立っていればいいというわけではない。

 苦しんだ今季の戦い自体が現段階の古賀のキャプテン像の完成を急がせてしまった可能性も大いにあり得るのだが、私たちメディアとしては、キャプテンとしてその都度その都度の総括や展望、チームの感情を求めて古賀にマイクを向ける機会が多い。この記事にもあるように、一問一問を丁寧に対応してくれる選手でもあり、取材エリアではたくさんの記者を集める1人でもある。

 では、チーム内ではどうなのか。古賀というキャプテンについてを選手たちに聞いた。

 「ご存知の通り、決して言葉数が多いタイプではないですけど、自分たちの中で、一番長くレイソルにいて、このクラブをよく知っている選手でもあるし、何気ない言葉の中からもチームのことをよく見ているなって思わされることがある。言葉数が少ない分、例えば、試合前も太陽の一言でチームが一つになって引き締まる。そんなキャプテンですよ。良いキャプテンだと思いますよ。太陽らしく、しっかりとチームをよくまとめてくれていますから」(三丸拡)

 「太陽がどんなキャプテンだったか…うーん、『いい塩梅』でしたね。引っ張り過ぎずに背中で見せて語りつつという感じで。あと、チームのみんなが言うのは、『声を出すようになった』ということかな。自分が知っていた古賀太陽よりももっとスケールが大きくなっていましたね。自分は今季、『太陽を支えるんだ』とレイソルへ加入しましたが、逆に支えられていることの方が多いんですけどね。そこはなんとかしないと!自分が来てから太陽が楽しそう?うん、それはよく言ってますね」(立田悠悟) 

  「まさに彼がチームを引っ張ってきてくれた1年でした。きっと一番苦しかったはずですが、今季キャプテンになって、強い自覚というものを感じていますし、その自覚を背負って戦う選手に成長したという意味で、太陽だけじゃなく、レイソルの歴史の中でも今季は重要なシーズンだったと思います。まだ自分たちには『天皇杯』がありますから、今季の最後に太陽にタイトルを獲らせてあげたい・カップを掲げさせてあげたい・そのためにサポートを続けたいと強く思っています」(戸嶋祥郎)

 彼らの話を聞く限り、古賀選手のアプローチはチームメイトたちにも伝わっているようだ。確かに成績は改善の余地ありだが、私は今季のチームのポテンシャルを信じているし、その中心…よりも少し離れたところに古賀がいる配置は絶妙だとすら思っている。

 ここで私が古賀のキャプテンとしての振る舞いの中で特に気に入っているのは今夏にあったあるエピソードを披露したい。 ある選手がミスを続けてロッカールームで塞ぎ込んでしまった。例えるなら、まるで岩のように。

 その選手に歩み寄った古賀はこう諭した、「おまえのせいなんかじゃないから。そうしている、今の時間がもったいない」と声を掛けていたという。何気ないシンプルな一言だが、古賀キャプテンの色を象徴するアプローチだった。

 古賀は「自分にも同じような経験があるから、すごくよく分かるんですよ」と話し、このバックステージでの出来事の真意を振り返る表情はフラットだが少し辛い話だ、古賀の声はまた少し上ずった。

 「まだプロ1年目、2年目。全く上手くいっていなかった頃。自分は上手くいかなかった理由を『自分のせい』にしていたんです。結局は自分で思い込んでしまっていただけだったんですけど。そこに気がつくまで、『良くない時期・もったいない時期』を過ごしてしまっていた経験があるので、自然と全てのチームメイトにも同じような感情を抱いて欲しくないなって思うようになりました。強烈な実体験として、『その時間はすごくもったいない』って知っているので。試合で起きるミスだけを見つめたら、『誰かのミス』とか『誰かのせい』に見えてもしょうがないのかもしれないけど、ミスが起きてしまうのには、必ずその前に理由というものがあるから、そこを突き詰めて、組織として未然に解決してしまえるのならそうしたいです。『誰かのせい』にするのはすごく簡単なこと。原因を見つけ、なぜそうなるのかに目を向けていかなければ、チームはそこから前進しないし、成長なんてできないから」

 古賀の言う「良くない時期・もったいない時期」ー。

 それはプロデビューシーズンである2017年の秋。

「改めて考えると、きっとあの時の経験が大きいのかなって思いますね」

 当時、背番号26番の古賀はチームの2つの失点を目の前で喫することとなった。巡ってきたチャンスを台無しにして、チームも敗戦。吹きつける北風の中で打ちひしがれ、「自分のせいだ…」と気持ちを落とし、失点以降は試合どころではなかった。試合後にはある先輩選手の肩を借りなければ、サポーターへの挨拶はおろか、空港への移動すらままならなかった。あろうことか、「このまま消えて、無くなりたい」とまで口走ってしまった。そんな経験から得た感情が言葉となって口を突いたという。

 不思議とあのデビューシーズンと同じように、キャプテン初年度はほろ苦いシーズンとなってしまった。肩を落としてスタジアムを周る姿ばかりを見た気がするが、「修羅場」とまでは言わないまでも、この道のりを知ったことやその道のりで垣間見せた古賀のキャプテンとしての器や振る舞い、成長は今後に期待を持たすものがあった。私はそこに触れておかねばならなかった。

 この稿が公開されるのは、川崎フロンターレとの天皇杯決勝戦の前日だ。決勝について古賀は、「いつもとは違う環境で、いつもとは流れで戦うことになり、バランスを保つことが大切になるはず」と話していたが、キャプテンとしては、超満員札止めの国立競技場へ駆け出す前、ロッカールームに広がったいつもとは違う熱が籠った円陣の中での振る舞いも気になるところだ。

 「毎週・毎節、チームに掛ける言葉なども自分なりに考えながらやってきたところもあって。例えば、常にチームの中心にいるタイプではない自分が天皇杯決勝に出る寸前にチームに対して掛ける言葉の中に自分の中にある思いを添えるだけで、チームメイトの感じ方も変わってくるはずですしね。今のチームには『決勝を知る選手』も少ないですから、あの時に自分が感じたことを投げ掛ける必要もあるのかなと思います」

 古賀がどんな言葉を投げ掛けて、チームを一つにしたのかは試合後の楽しみとしておこう。

 さて、すっかり長くなってしまった。

 レイソルが天皇杯を獲得すれば、実に10年ぶりのタイトル獲得となる。何事もなければ、10年前のあの頃、日立台の人工芝グラウンドでスキルを磨いていた背番号2番のあの華奢だった少年が、レイソルのキャプテンとなって天皇杯の優勝カップを掲げることになる。

 その後、あの少年は北風に吹かれながら、打ちひしがれたこともあった。なぜか、チーム内に「自分の席」が無くなってしまったこともあった。

 新天地へ旅立つことを決心した先輩がロッカールームを整理する背中が醸す寂しさやプロの厳しさを噛み締めたことだってあるし、「あとは太陽に任せたよ!」と旅立ったあるロールモデルとは、もう少し一緒に戦いたかった。ある先駆者に「絶対に残留させろよ」と説かれ、大観衆の前で込み上げた感情と戦ったこともある。

 それこそ、ベッドから国立競技場へ向かったようなギリギリのコンディションで臨んだ過去の決勝戦では、自分の数m目前でタイトルが逃げていったこともある。

 いつも何かを抱えて、託されて、預かってしまうんだ。

 そもそも、これだけの選手だ、強烈な「外部からの関心」が寄せられたことだって1度や2度の話ではない。

 それでも、古賀太陽はここにいる。

 私は彼を「もっとリスペクトを集めるべき選手」だと思っている。

 でも、分かっている。何ががまだ足りないのだ。

 足りないものは分かっている。

 古賀は明日、柏レイソルの「4の真ん中のキャプテン」として天皇杯決勝戦の舞台に立つだろう。

ならば、私は見たい。どうしても見たい。

 いつも何かを抱えたまま、私たちの前へ立ち、頭を下げてきた。

 見たいのはそんな古賀の姿ではない。

 私は「少し離れた場所」からではなく、「チームの真ん中」に立ち、きっと、少しぎこちなく天皇杯の優勝カップを掲げる古賀太陽の姿を焼き付けに行くのだ。

 そして、また話そう。

(写真・文=神宮克典)