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アングル、さまざま-小泉佳穂、田中隼人、山田雄士

レイソルコラム

 事前の天気予報を裏切って差し込んだ陽光が照らす三協フロンテア柏スタジアム。

 野球場と人工芝グラウンドあたりから差し込む強い光は季節によって色温度に違いはあれど、柏熱地帯のレイソルサポーターをショーアップする唯一無二の特効装置だ。今の時期ならシーズンを突き進むポジティヴな光に見えるし、秋ならシーズンの終盤の切なさを優しく演出してくれる。撮影スポットとしても最高で、特に右サイド最深部からのアングルはいつも奇跡を生んでくれる。屋根?私はずーっと反対派だ。

 注ぐ光をバックに思い思いのゲートフラッグに推しタオルを構える人たち、柏レイソルの歴代ユニフォームを着た彼らに彼女たち、世代も豊か。誰よりも一番に高く飛ぼうとする人やスタグルにかじりつく人、クラブのVlog用のカメラに「結果」を出そうとする人、ゴール裏はこの日も賑やかだった。

 それもそのはず、前節・京都戦までを「どんな形」で終えようとも、この日を迎えた時点で4位という順位に立つシチュエーション。相手は難敵・ガンバ大阪。狂いはせずとも、正気ではいられない気持ちは理解できる。

 さて、このG大阪戦ー。

 私はいくつかのアングルから試合を眺めていた。

 まず1つ目は多くのサポーターたちと同じく、「小泉佳穂」というアングルだ。

 とにかく、今年のレイソルは褒められている。新しい選手の台頭、新しい監督が持ち込み、発するエネルギー、そして、その中少し次元の違う輝きを放つ小泉に魅了され、虜になっているサポーターは多く、私もその1人だということを隠さない。

 だけど、レイソルは勝ててはいなかった。

 「埼玉スタジアムを黄色に染めて」以来。

 小泉に聞きたかった。

 「どうして勝てていないのだろうか」

 水曜日の京都戦を終えて、木曜日に日立台へ戻ってきたチームに取材許可が下りたので、日立台の施設内で小泉を待った。久しぶりの「ゼミ」だ。

 「広島戦はともかくとして…鹿島戦も東京V戦も京都戦も…ボールが持てていなかった。そこかなとは思います。もちろん、試合の中でチャンスもあるので、そこを決め切ることもそうでしょう。当然、そこは向き合う必要がある…うーん、『ボールを失うリスク』を怖がり過ぎて…相手がまだ人数をかけてプレッシングに来ていないのに、長いボールを蹴っていたり、それを嫌がるあまり、相手から逃げるようにボールを回して、相手のプレッシャーを強く受けてしまっていた。もう少し怖がらず、中央で、良い距離感で、パスが回ると、相手が嫌がって、中を閉じると、外が空く…これは中も外も両方ですけど、両方を使えなくてはいけなくて。そうこうしているうちにボールの持ち方も相手から逃げるようにプレーしてしまうと、相手のプレッシングのスイッチが入ってしまう。自分たちも相手も、プレースピードも上がってしまって、1つのプレーの難易度が上がり、距離感も広がって…そういうところは問題かなって」

 黒板に記すはずの文字をいつもより躊躇いながら、記して、また少しずつ消しては上書き、それを繰り返すような口調で、「ごく最近のレイソルの今」をこう表現してくれた。

 「試合や相手に応じて、色んなやり方をしている中で、『自分たちのスタイルを貫き通す』ところをうまくやっていきたいですけど、そのために必要な『臨機応変さ』は…ないですね…まだ。相手のことを『見誤っている』というより…『見れていない』というか。事前に手元にある情報だけでサッカーをしてしまっている気がする。実際にピッチの中でできることをやってみて、『こうだよね』ってできるようにならないと。『相手のやり方』に合わせ過ぎてしまっているのかな」

 このタイミングで云えば、スケジュール的にも続いてしまった「高強度ハイプレス」との対峙とその結果としてという言及がメインとなったが、この対峙はいずれまた来る課題であり、試合展開によっては発生する事案であり、「レイソル型」のチームには常に横たわる課題でもある。

 そして、最後に「今は『相手が嫌がること』ができていないですし、『自分たちの方からリズムや主導権を取ることを放棄してしまっている』と感じています。そう思います」

 そんな警鐘を静かに鳴らしてから迎えた、日曜日。

 ここ数試合とは異なる類の試合とはなったが、小泉は自らの右足で決勝をスコア。柏熱地帯へ雪崩れ込み、両腕を広げ、サポーターのコールを吸い込んでいた。

 展開的に「警鐘」の解決に至ったかのかどうは少し先送りになったのかもしれないが、「自分たちのスタイルを突き通す」ことや「自分たちの方からリズムや主導権を取ることを放棄してしまっている」部分においては大きな意味を持つ勝利には間違いはなく、「警鐘」を鳴らした数日後に見せてくれた大仕事に鳥肌が立っていた。時として、試合後のコメントが必要ないほどの説得力がある、場合もある。

 あまり良い結びではないのは百も承知だが、記事アングルの回収はまたまたいつの「ゼミ」で。黒板に記された言葉たちは次回まで残しておこう。

 

 2つ目のアングルは「田中隼人」ー。

 技術的には何の問題もない選手でありながら、1つのトラップにも気を使ってプレーしていた様子の鹿島戦での初スタメンから数試合を経て、実に堂々と左CBを務めている。

 「前半からやれていたこともあった。対人守備のところでも、1年前2年前にはなかった部分も出せていた。だけどやっぱり、局面で見てみた時、失点のシーンでもう一歩行くべきだったり、予測をして守り切るべきところもあった。J1トップレベルの選手のクオリティを感じました。自分が体験してきたレベルとはまた違うことを。1人で最後を守れる選手にならないといけない。自分の意識で変わっていけると思っている」

 遡ってみると、「あの時の田中」の言葉からは多少の動揺を感じはするが、トラップもコメントからも滲み出てくる用心深さと素直さのようなものは彼の全身から伝わるポテンシャルと同じくらい、信用に値する価値がある。プロの世界、「誰か」はきっとやんややんやと言うのだろう、しかし、私は本気でそう思っている。

 ただ高く跳んで、相手をねじ伏せて。それだけでは終わらず、ボールを的確に動かし、攻撃をコントロールするCBとして育った。さらに今はより強くそれらを求められるサッカーの中では、見ている側の「チェック項目」は異様に多い。まさに「できてしまうからこそ」のそんな視線に晒されながら歩んできたところのG大阪戦の田中。試合後は穏やかな表情だった。

 「1回、ジェバリ選手に入れ替わられた以外はうまくやれていたと思う。やっと、J1のスピードにも慣れてきた感覚があります。その感覚が大きいというのがまずあって、今日は自分が攻め上がる機会もありましたけど、そこはまだ難しい。コヤくんのサポートをする場面とサポートをしない場面の使い分けはリキくんに助けてもらいながら、カウンター対応中心にうまくできたと思っています。ワタルくんのように自分も攻撃参加できたらと思いますけど。まだまだそこは。だけど、『そこを得られたら…』とは思っています」

 攻撃参加はほどほどにチャレンジをした。ボールは来たり来なかったりだったが、周りが見えているから、周りを頼れるし、良いボールも出せていた。田中の前方に構える小屋松知哉も田中との関係にポジティヴな感触を述べてくれていた。

 「隼人もだいぶ成長ができているなと感じていますし、自信を付けてプレーをできているとも感じていますよ。まだまだ自分も隼人に要求があるし、隼人も隼人の考えがあると思う。お互いの精度をもっと高めて、クオリティーを上げていきたい」

 でも、このところ光っているのはシュートブロックやクサビへの対応だったりする。まさかのシーンを試合映像配信のサムネイルにされてしまう不運はあったが、G大阪戦でも果敢なスライディングでピンチを救っているし、クサビのボールへの勘の良さは育成年代から田中が持つスペックの1つ。

 田中につきまとう「昨季はJ2長崎でプレー」という枕言葉はもうそろそろ外していただきい。そんなことを言いたくなるほどの「印象」を積み重ねて、勝利も手繰り寄せた。

 また、このくらいの世代の選手はだいたい「誰かの代役」からキャリアをこじ開けるもの。田中が今歩んでいる道は「隼人は『自分の推し』ですから」と公言する古賀太陽も、この日の対戦相手のキャプテン殿も「君の憧れ」も「お世話になった先輩」も通った「選ばれし者の道」だ。こればかりは「海の向こう」じゃ得られない。

 少し前に「生えた草」については瞬く間でもいい、時間をかけてでもいい、その草に水をやるくらいでもいいし、そのうち、さらなる成長曲線の轍と共に刈り取って仕舞えばいい。

 

 そして、最後のアングルは「山田雄士」ー。

 ここ数週間、例えば、練習取材の機会でも、これまでの山田にしてはそそくさとクラブハウスへ引き上げていた。

 そして、笑顔混じりで何度か聞いた、「こっからです(ここからですの意)」の言葉。

 今季の印象はその程度だった。

 ルヴァン杯の沼津戦での出場まではベンチ入りはあれど公式戦の出場は無し。

 聞けば、山田は勇ましく華やぐチームの様子を少し離れたところから見つめていたという。

 「だいたいの『序列』は理解していて、でも、『自分がそこに左右されて続けてしまっていたら、この先もたないし、1年間戦っていけないな』と。自分も出番が来るか来ないかは分かっていたし、『チームのために』という気持ちで取り組むその前に、しばらくの間は、『自分のこと』だけに集中させてもらってきた」

 そして、十分な時間の出場機会は訪れた。

 57分、原川力に代わってピッチに投入された。ボランチで30分ほどプレーをしてから、小泉と代わって投入された白井永地にポジションを譲り、小泉が務めた「シャドー」を任された。

 試合終盤に失点を喫した京都戦の反省を活かすべく、自陣にこもらず攻撃の弓を弾くようなチームの姿勢を示すアタックも見せた。

 「今日はまたプレーができました。ここからもっとアピールをしなくてはいけないですし、『今の自分ができることを証明する』、『やれることの幅を広げる』、『チームのやり方を整理する』。そのあたりをしっかりやってきて、自分なりに『良くなってきたな』って感覚を得られた頃にベンチ入りができた。ずっと、ボランチで準備をしてきて、今日はシャドーでもプレーしましたけど、監督からは『時間帯と状況を見て守備を』という話もあったので、自分の守備力を評価してくれていることに応えたい気持ちとボランチとしてのポジショニングやビルドアップ、無理矢理でも前を向く、そのあたりは意識していた」

 山田の言葉を借りれば、ある程度の「序列」は我々も理解していた。その中でアクシデント気味に訪れた、この簡単ではない出場機会で、山田がどんなプレーで応えるのかは気になっていたし、このサッカーの中で山田が示すべきことはまだ多くある。

 山田にマイクを向けながら、「栃木時代に似ているね」とこの日の山田のプレーについて指摘すると、「確かに!そうかもしれない」と微笑んだ。

 まさに「今の自分ができることを証明する」、「やれることの幅を広げる」、「チームのやり方を整理する」。驚くほど短期間ではあったが、その全てを果たしてみせた栃木時代がシンクロしていた。

 少しばかり待たされはしたが、「もしかしたら、まだ見たことのない山田が見られるかもしれない」という希望や「このようなサッカーに憧れてレイソルアカデミーへ来たあの中学生がやっと…」というストーリーに期待を込めた記事を終える。

 さらに別れ際は傑作だった。

 「自分は『理解してもらうまで、少し時間が必要な選手』ってことで(笑)!」

 …何やら、「含み」とも取れなくもない。

 「『いよいよ楽しくなってきた!』ってことです!」

 そして、そう笑った。その顔はくしゃくしゃだった。待ってたよ、ヤーマダ。

(写真・文=神宮克典)