年明け早々のトレーニングセッション。
日立柏サッカー場に響くリカルド・ロドリゲス監督の声。
柏レイソルの「新しい日常」が始まった。
分けられた2つのグループと負傷明けの選手たちがグラウンドに広がる。片方のグループはボールを使った実戦的なメニュー。その様子を目で追う片方のグループはフィジカルメニューといった約2時間のセッション。
まだまだ初期段階の初日ではあるが、漂う良い緊張感とリカルド監督が発する強いパッションが感じられたのは澄み切った冬の空気のせいではなかったはずだ。
色々な情報が飛び交った年末だった。
色々な別れもあった年末だった。
始動寸前までたくさんのニュースが舞い込んだ。
未だ顔と名前が一致するまでひと苦労という状況ではありながら、ピッチを駆ける彼ら、新風を吹かせてくれるであろう彼らの姿を焼きつける。目に飛び込んでくる多くがフレッシュな始動日だった。
多くの選手が取材エリアをゆく中、最初にマイクを向けたのは島村拓弥。
昨季はキャリア初のJ1で30を超える公式戦に出場。開幕から斬新かつ卓越したスキルでサポーターを魅了。鮮やかなインパクトを残しながら、その終盤にはやや苦労した。残留争いの中で居場所がやや希薄なものになっていった悔しさを晴らす素晴らしいシーズンを過ごしてもらいたい選手の1人。
きっと、島村は少年時代からのお気に入りのチョコの「みらい」、「ねがいごと」、「はんせい」。もしかしたら、「にんき」を弾いて昨シーズンを終えたはず。気持ちを新たに迎えるであろう新シーズンの心境がどのようなものなのか、頭に入れておきたかった。
「今季、リカルド監督がレイソルへ来て、自分の中に『また新たな気持ちで1年をがんばっていこう』という新鮮なモチベーションがあるのと、昨年はキャリア初のJ1ではありましたけど、『それなりにはできていた』という感触があるので、今年はシーズンを通じて良いパフォーマンスを見せて、たくさんの試合に絡みながら、『自分のプレー』というのをしっかりと出して、チームに貢献したいし、シーズンが終わった時に、自分自身が納得できるシーズンにしたい。昨年学んだことも残った課題も、克服していかなくてはいけないことも理解しています。全てで成長をしながら!」
肩の力は程よく抜けてはいるものの、意志の強さを感じる眼孔で島村はそう話した。
そして、しばらくすると身支度を整えた古賀太陽が現れた。
昨年末には彼の預かり知らないところで、さも別れを決意したかの報道がなされた古賀だったが、「シーズン後、少し経った頃には気持ちは決まっていましたよ。12月の中旬ですかね」と微笑んでからこう続けた。
「自分の年齢もキャリア的にも、今後のキャリアが決まるようなタイミングでしたから、しっかりと決断をしたつもりです。クラブからも『ポジティヴな変化を生み出していこう』という気持ちを感じて、『自分も!』と。ただ、レイソル以外のクラブが自分へ関心を寄せてくれたことや選択肢が生まれたことは選手として本当に幸せなこと。その上で自分は『レイソルでプレーすることが一番の幸せ』だと思って決断をしています。今季は『日立台でみんなで笑える機会を増やしたいな』という気持ちです」
毎年のように数多く寄せられる古賀への「もっと良い選手になれる」という打診。その都度古賀はレイソルを選択してきたのだが、かつてはそれなり以上の熱を込めた打診を古賀へ送っていた監督とこのタイミングで共に歩むことになった。そんな監督が易々と古賀を手放すはずなどなかった。
「リカルドは『もっと良くなる。成長させる』と言ってくれた。きっとみなさんが喜んでくれるサッカーができるんじゃないかと思っているんです」
古賀はここでもっと良くなる。
もしかしたら、「数年前のサイクルが頭を過ぎること」や「昨年と何が違うんだ」と感じる時もあるかもしれない。そんな時は手元の通信機器に目をやるよりも上を見よう。私たちは上を見て共に歩むしかないのだから。私たちならそれができる。
(写真・文=神宮克典)