「自覚・危機感・探求心。 キャリア・ハイ」前編-古賀太陽

レイソルコラム

 人もまばらな2020年1月の成田国際空港。

報道陣も引き上げた空港ロビー。駆け引き無しで古賀にコメントを求めた。話題は「あの件」ー。

 「大事な初戦で勝点1を拾わないといけない試合で、それが0になってしまったのは明らかに自分の責任。今までにないダメージやショックがありました。状況を理由にせず、その後出番はありませんでしたが、自分に矢印を向けて向き合っていました」

 縦パスを入れるタイミングはあった。ピッチ上の選手たちもそのつもりだったが、判断を自重した古賀はGKへのバックパスを選択。放たれたボールは弱々しく凍てつくピッチを転がり、相手選手の足下へ。

 「でも、ずっとそこに留まり続けるのではなく、練習の中で気持ちを切り替えられた。周りの選手たちも気遣ってくれましたしね。さすがに今もあのシーンの残像はありますけど、また試合の中であの状況になっても、縦パスとバックパスの選択肢は用意してプレーをすると思います。スイッチを入れることもやり直すこともできる、自分はそういう選手なので」

 遠征中のルームメイトである立田悠悟(清水)の気遣いは痛快だった。

「太陽、やっちゃったな…もっと苦しめ。もっと苦しむんだ。オレはもっと苦しんだからな!あの時のオレの苦しみをおまえも味わってみろ(笑)」

 立田も年代別日本代表の舞台で、失点、あるいは敗戦に繋がるパスミスをした経験を持つ選手。

 そのショックの大きさがわかるからこそ、親友・古賀の操縦法を理解しているからこその「荒療治」。事実、古賀は立田に対して「それこそ、あの時は彼に支えてもらいましたね」と笑顔を見せた。一方の立田は「自分は何もしていないですよ」と惚けながら笑みを見せていた。

 そんなスタートとなった2020年だったが、古賀は開幕スタメンを飾り、36試合に出場。

「古賀にターンオーバーは無いんで(笑)」

 そう冗談めかして自分の立場を笑っていたが実際、額をカットした試合もあれば、膝をテーピングで固めた試合もある。その膝がいよいよ言うことを聞かない試合もあった。しかし、スタメン表には古賀の名があった。

「何かケガをしていたら、全く違うシーズンになっていたと思います。体のケアは…今までほどほどにしていましたけど、これだけ試合に出させてもらっていたので、躊躇せずにトレーナーさんにお願いするようにして、すごくお世話になっていて。トレーナーのみなさんの存在が大きく影響しているのは間違いないですし、感謝していますね」

 周囲のサポートに甘えるだけではなく、自らの食と体を見直すようになった。食とコンディションについての関連性にまだそこまで詳しくはないというが自らキッチンに立つことが増えた。ピッチでボールを扱うようにとまではいかないまでも、食に対する意識は強くなった。もともとステイホーム向きのライフスタイルだったことも後のコンディショニングを支えた。

「なかなか『外食へ』とは行きづらい中で、体のことを考えたメニューを組んでみようと。きっかけは自粛期間。食と向き合う時間が増えました。『体にいいものを』と考えて、魚を多く摂るようになって…まだまだ詳しい知識ってほどは持っていないですけど、魚を買う機会が増えたかも(笑)。『魚に入っている脂がいい』とか…正しいのか分からないですけど、積極的に魚を摂るようになりました」

 少なくとも、今までにないアングルから体との会話をしたことの成果を鑑みると、来季も街のどこかで魚を選ぶ古賀の姿があるかもしれない。

 ピッチでも新たな姿が見られた。メディカルやトレーナー陣との連携もさることながら、この2シーズンの稼働ぶりは我々の眼に焼き付いている。

「2019年は『良くなくても勝ってるからOK』みたいな試合が結構あって。自分としては『良くない部分に目を向けられていなかった』と感じていた。J1だと出来が良くなかった試合は負けるし、1個ミスしただけで失点するし…1年目の時も痛感していましたけど、試合に出続けることで良くない部分がはっきりしたりとか、そこが直接結果に関わっていく。そこを改めて感じられたことは大きかった」

 左SBをベースに試合ごとに様々な役割を担うのはもはや当たり前。さらに今季は担った役割を高い水準でこなした。チームに新たな選択肢をもたらす働きぶりが目に焼き付いている。今まで以上に巧みにボールを循環させて、今まで以上に力強くボールを奪った。システムの可変部には必ず古賀がいた。

「CBとSBの場合で距離感は違いますけど、相手に向かう角度や体の向きを考えながらやれているし、違和感も感じずにやれています。そういった感覚は試合に出続けたからこそ高められたかなと思いますね。今ここで『ポジションを決めてください』となると難しいですけど…その中途半端さが逆に良いのかもしれないなと(笑)。別に今すぐ決める必要もない訳だし、任された役割を少しでも高いクオリティでやれればと」

 パワー一辺倒で相手に絡みつくことはない。CBとしてのプレー機会が増え、守備者としてのスペックは増した。

「デュエルの機会が今まで以上に増えたのは事実です。間合いや駆け引きはいろんなタイプの選手と対峙することで得たもので、試合に出続けたからこそ、見つけられた部分はすごくあるのかなと思います。CBからSBになった試合で寄せづらくなったとも感じないですし。上手く感覚を高められているのかなとは思います」

 古賀はもともと「体の向き」や「角度」に重きを置く選手。それはマイボール時も然り。体の向きによってパスの配球や強度、判断を見極めている。また、江坂任と大谷秀和と並ぶ両足の使い手でもあり、ビルドアップの貴重な中継点としてボールが経由することが多い。立場上、望まぬタイミングでのプレーを余儀なくされながらも、状況判断はシンプルで明快だ。もはや弱々しいパスなど見られない。

 「試合をしていれば、タイミングがおかしかったり、『その体の向きでボールを受けに来られても難しいから!』って場面は確かにあります。ただ、それも徐々に変わってきて、この1年で『太陽は縦に付けられる』っていう印象は持ってもらえているかなとは思っていて…自分の中でも『まず縦パス』っていう意識が強まっているのはまずあって、『縦へ付けれないなら、相手を動かす為のバックパス』を考えて。判断基準や優先順位が、『まず縦パス』になってきていますね」

 その感覚がイメージしやすいのはCBとして出場した9月9日のG大阪戦だ。

「あの試合は結構好きな試合です。アシストもできましたしね。ボールを受けるタイミングで、前線の様子もすごく良い見え方をしていて、ボールタッチや縦パスの感覚もすごく良かった試合でした。あの試合はすごく好きです」

 試合開始2分に満たない時間に、左足からの縦パスからマイケル・オルンガのゴールをアシストすると、後半にも呉屋大翔の決定機を鮮やかにクリエイト。トラップからルックアップ、そしてキックに至るまで迷いなく左を振り、イメージ通りのパスを放った。共にスローな横パスから25mクラスのパスを放っており、緩急の部分でも秀逸な判断だったといえるだろう。

 「何かあのシーンで特別なことをした感覚は自分の中にはないですけど、相手が今まで以上に自分にプレッシャーかけに来ていて、誰がどの人を捕まえに来ていて、どこにスペースがあるのかを、試合中に感じ取れるようになったことが1番大きかった」

 相手の矢印をつぶさに感じ取り、最良の選択で試合を動かした手応えをそう表現した古賀は、実はその1ヶ月前にも同様の感覚を経験していたとういう。「自分の中でのベスト」と言ったその試合は、細谷真大の先制ゴールと北爪健吾の2ゴールで勝利した8月12日のルヴァン杯グループステージ第3節大分戦だ。

 「後半から入って、『全体を動かせた』感覚だったんですよ。前半は大分に押し込まれていて、攻守が上手くいっていない展開で入ってという状況だったので、『自分が動かす』って気持ちで入ったので。あの試合は今年の試合の中でもテンポよく球もはたけてたし、相手を動かせていたし、縦にも入れられてた感覚はすごい残ってるんで。『これがゾーンってやつかな』ってくらいの感覚でした」

 以前から「SBは楽しいですけど、CBに興味があるんです」と話す古賀にとっては、その想いに拍車をかけるものがあるかもしれない。試合に出続けることで感覚が研ぎ澄まされたというポジティヴな「内的要因」も大いにあるだろう。

 だが、古賀にとって、今まで味わうことのなかった、さらにポジティヴな「外的要因」がハイパフォーマンスへ繋がっていたことにこの頃古賀は気が付いていた。

(写真・文=神宮克典)