7月3日、日本サッカー協会は、26日開幕予定のパリ五輪(フランス)に臨むサッカー競技日本代表メンバー18名を発表した。
我らが柏レイソルからは、FW細谷真大とDF関根大輝の2選手が選出。1968年メキシコ大会以来、実に56年ぶりとなるメダル獲得を目指す。
日本代表は「グループD」に所属し、25日に南米の古豪・パラグアイ代表、28日にアフリカの雄・マリ代表、31日に欧州サッカーの新興国・イスラエル代表とグループリーグを戦い、決勝トーナメント進出を狙う。
細谷はこだわってきたパリ五輪へのチケットを手にしたことになる。それは柏レイソルトップチームと柏レイソルアカデミーを行き来して、第2登録を済ませ、憧れだったトップチーム昇格が見えつつあった柏Uー18時代から。
常に取り憑かれたかのように、「パリ五輪出場」を公言してきた。
体のダメージや疲れと戦いながら、ジェットラグもあっただろう。「エース」と呼ばれ愛されるまでに至ろうとも満足せずに、パスポートとスパイクを手に世界中を飛び回る日々を繰り返し、ようやく念願の選出に至ったのだが、細谷は周囲への感謝を忘れない。
「2種登録時代はひたすら試合へ出るためにもがいていた。その後に自分たちには『パリ五輪』があることを知って、ずっとそこを目指してここまでやってきましたし、この五輪へ出場するためにやってきた思いというのは強いものがあります。大舞台でもあるので、しっかりと結果を残して、自分の名前を世界に知らしめたい。選出については自分もヒヤヒヤする思いはあった。それはずっと一緒に戦ってきた選手たちが『競争感』を作ってくれていたから。今も彼らをリスペクトしていますし、彼らのおかげで自分は成長できた。佐々木雅士もバックアップメンバーに選出されていますが、選ばれなかった選手たちのためにも、自分たちはプレーしていかなくてはいけない。口だけじゃなくて、結果で示していきたい」
細谷の強い気持ちが生み出す勇敢なプレーは私たちの誇り。何人の対戦相手たちが細谷に弾き飛ばされてきたことか。誰よりも素早く、近づいて来る相手を寄せ付けず、ゴールネットを揺らして、パリ五輪出場を引き寄せてみせた3月のカタールでの2つの「マオゴール」はその結晶だった。
そんな、誰にも文句を言わせない、私たちの心を震わせる見事な結果を積み上げていながらも、五輪代表選考にはつきもののオーバーエージ枠の問題や、国内外での新戦力の台頭もあり、この7月3日のメンバー発表が近づくにつれ、勝手に周囲は騒がしくなっていた。
その渦中にあって細谷は「別に気にしてはいませんでした。色々な情報が流れていたのは知ってはいましたけど、特に深く考えることなく過ごしてはいましたね」と顔色ひとつ変えずにさらり。このあたりのマインドセットはさすがといったところか。
細谷は2024年1月にはA代表として、3月にはUー23代表として、カタールでの2つ「アジア杯」を戦っている数少ない選手。「A代表としても、五輪代表世代としても、アジア杯に出るつもりですし、パリ五輪に必ず出たい」と誓っていた今年。細谷個人としても、A代表の景色を知る選手としても、パリ五輪出場権獲得は果たすべき責務だった。そして、次は「自身の価値」を証明する番だ。だから、細谷はパリ五輪にこだわった。知ってしまった「その先にある景色」に用があるからだ。
「チームとしては『金メダル』という目標がある。個人としてもチームの勝利に繋がるゴールや貢献するプレーをしたいと思っていますし、パリ五輪で輝くことができたり、結果を残すことができれば、必ずA代表へ繋がると思っています…もう一度、『あのチーム』のメンバーに入りたいって思っています」
今では日本代表の新ユニフォームのメインビジュアルに抜擢され、細谷らしい、実に太々しい表情のモデルシューティング広告やサイネージが都内に展開されているのだから、さらなる活躍が期待されているのは間違いない。
「まだ、都内に行っていないので、見られてはいませんけど」と少しバツが悪そうに照れていたが、こればかりはもう、「主人公が故の宿命」だ。
一方の関根は、拓殖大学サッカー部でプレーしていた2022年に柏レイソルの目に止まり、2023年5月に「2025年からの柏レイソル加入」と「特別指定選手としての柏レイソル加入」を勝ち取り、公式戦デビュー。2024年には「アーリーエントリーでの柏レイソル加入」をも果たした超新星。しかも、ただ加入しただけではなく、大きく進化をしている。
「ここまでは『上手くいき過ぎている』と感じているくらい、今のところ、自分が思い描いた通りにサッカー人生を歩むことができている。ただ、自分はそれを望んで、ここまでやってきた。やるべきことをやってきたつもりですし、その積み重ねが今に繋がったと思っています。色々な方々との出会いや縁、分岐点もありました。たくさんの人たちのおかげで、なんとか『正解の方向』へ持ってくることができている…本当に『上手くいき過ぎているかな』と思います」
初めて取材をした日から、「夢は『レイソルでの貢献』と『パリ五輪出場』です。そして、いつか、『世界』へ飛び出したい」と素直で野心的なビジョンを話していた関根は、2022年の全日本大学選抜でのプレーを機に、着実にパリ五輪世代の主力選手としてステップアップ。
特に私たちレイソルサポーターですらまだ見たことのないプレーの数々を披露して、完全なブレイクを印象付けた3月のアジア杯では攻守で「派手に」台頭してみせるなど、今や国内屈指の若手注目選手となり、細谷と同様に「パリ五輪以降」を想像してしまいたくなる存在となっている。
そんな今、「あの時の自分に言えるとしたら、なんて言いますか?」と関根に問うた。
「うーん、やっぱり、そこは『パリ五輪代表になっているよ!』ですかね(笑)。でも、あの頃は目標として、『パリ五輪』と口にはしていましたが、まだ自分に対する自信も実力もなかった。その後、レイソルでやっていくうちに、自信もついて、今日の発表の瞬間もより現実的にドキドキするくらいの段階まで来ることができたのは、今のところの『選手としての財産』となっています。今回、選んでいただいた以上は日本のために、自分が持っているものを全て出してチームに貢献したいです」
「柏から世界へ」というメンタリティを加入前から持ち合わせ、それらを驚くべきスピードで達成していく関根。パリヘのチケットを手にしたこの素晴らしい日に、もう一度自身が描くビジョンを再設定してもらうことにした。
「まず、自分が最初にするべきはレイソルで活躍すること、結果を残すこと。それが第一であるのは変わりません。パリ五輪で結果を出すことも大事なことですし、自分はいつか世界で戦いたいと思っています。イングランド・プレミアリーグで戦いたいという思いはずっと自分の中にある。その目標が今回のパリでの結果次第で近づいてくるかもしれない。そう思っています」
昨年、関根のコラムを付けた際にも「ゆくゆくは世界へ」と話してくれていたが、掲載はしなかった。その時は「時期尚早」だと判断したのだが、関根がそこからの期間をいかにすごいスピードで駆け抜けていったかがよくわかると思う。さらに言えば、別に既存の何かや誰かになんてならなくていい。
パリ五輪日本代表は18日にフランス・トゥーロンで開催されるフランス代表との親善試合を経て、パリ五輪へ挑む。晴れて、「華の都」へ旅立つ細谷真大と関根大輝だが、聞く限り、彼らにとって華やかなその地は「経由地」でしかないようだ。
ならば、このトランジットは盛大にやってくれ。私たちは自慢の「エース」と「超新星」の成功を祈っている。そして、パリ五輪日本代表に幸あれ。
(写真・文=神宮克典)