柏レイソルは12日、三協フロンテア柏スタジアムで開催された、いわてグルージャ盛岡(J3)との「天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会」2回戦に臨んだ。両クラブ共に、「天皇杯」という大会と「サッカー」という競技、この試合に関わる全ての人たちへの敬意に包まれた一戦は、プロ2年目のシーズンを迎えたFW山本桜大の2ゴールでレイソルが3回戦進出を決めた。
鮮烈な2ゴールでチームの勝利に大きく貢献した山本は活躍の喜びもそこそこに、引き締まった表情でこう話した。
「しばらくリーグ戦に出場できていない立場の自分としては『結果が欲しい!』と臨んだ試合だった。でも、その一方で結果はすごく大事ですけど、結果ばかりを意識してしまうと、固くなってしまったり、プレーに良くない影響が出てしまうこともあるので、あまり結果ばかりを意識をせずに試合に入ろうと思っていた。前半はゴール前へ入れずにいたが、後半は気持ちを切り替えて戦えましたし、2ゴールを決めることができてよかったです」
64分、升掛友護の力強いドリブルと鵜木郁哉の巧みなラストパスから決めたゴールでリズムを掴むとその約10分後、相手DFを引きつけながらロングフィードを収めた木下康介は中央へ優しいパス。走り込んだ山本が再びゴールネットを揺らした。
「1点目は予測をしながらスペースを作り、ポジションを取っていました。郁哉くんから強いパスが来て、DFとの1対1から足を振ったというゴールでした。2点目は康介くんにDFが食いついていた。康介くんも自分のことを見えていたはずなので、スペースへ走り、トラップも上手くいって、シュートを流し込むことができました」
「第46回日本クラブユース選手権得点王」という勲章を引っさげて、臨んだ1年目の昨季はリーグとカップの主要大会で12試合に出場。12月の天皇杯決勝戦にも出場するなど、多くの経験を積んでいたがゴールは天皇杯2回戦での1ゴール(PK)のみ。迎えた今季も開幕からメンバーに食い込むだけでなく、順調にプレータイムを増やしていたが、ゴールはなかった。
「2月の指宿から監督やチームに求められることを表現することを一生懸命にやってきました。『守備をしながら前へ』という戦い方の中で、ゴールチャンスに絡むという役割は自分に合うと思います。『走れること』や『守備強度』を買われて出場機会を得られていると考えていて、『ゴール』も求められている。その部分は自分の中に『伸びシロ』になるはず。でも、ゴールは欲しいです…もう、ガチで!」
山本が話しているように、周囲と連動して相手選手を追い回す、ファーストディフェンダーの役割をこなして、マイボールとなれば、鋭く相手陣内へ駆け込む山本の印象は強い。そう昔ではない育成年代での山本は、ハードワークをこなした上で、クロスのターゲットとなる選手の背後に入り込んでのゴールや周囲との連携に反応してゴールを奪うなどでストライカーとして成長していった。いわゆる、「3人目の動き出し」や「ポジショニング」といったスペックだ。
その意味でも、この天皇杯での2ゴールは山本の魅力が詰まったものだったといえる。サイドやゴール脇で見せるドリブルからのチャンスメイクやゴールへといった自己主張も良い。前述した「3人目の動き出し」や「ポジショニング」というスペックも魅力的。
だが、それらスペックを支える「予測」の部分で、ある注文がなきにしも。少し前にはこんなこともあった。それはある3月の試合でのワンプレー。
中盤からのフィードに反応した木下はDFに包囲されながらも巧みに中央へボールを落とした。しかし、山本はそのボールに反応していなかった。木下は山本へ身振りを交えて、「なんでいないんだ!」と強く意思表示していた。木下はそのシーンをこう回想した。
「あの場面では信じて中へ入って走り込んで来て欲しかった。自分もまだ加入して間も無いし、もっとコミュニケーションを取って、話をして解決していきたい。桜大には試合中にも要求しましたし、試合後にもまた話をして、イメージを伝えました。きっと分かってくれると思います」
この日、2回あった山本のゴール・セレブレーション。その中で木下が一際手厚く山本を祝福していた。特に2点目の形は3月にあったシーンと酷似していたが、「なんでいない?いや、今はそこにいる」という山本からのアンサーにも見えた。その意味で2ゴール目以上の価値を持ったゴールだった。
かくして、「しばらくリーグ戦に出場できていない立場」の山本は有意義な結果を抱え、再び競争の中へ。
「チーム状況的にも『ヒーロー』のような選手が求められていると思います。そういう選手が出てくれば、もっとチームを楽にできるはず。今日は天皇杯で2ゴールを決めることができましたけど、調子に乗らずに、今日の結果をリーグ戦へ繋げて、自分がチームに勢いをもたらせる力になれるように、またがんばります!」
昨年は多くの経験を積んだ。昨冬の国立競技場の「あの景色」を知る選手でもある。そして、何よりプロ2年目のさらなる飛躍に意欲的。説得力のある結果と言葉を胸にゴール量産を担うFW陣の一角に名乗りを上げた。
(写真・文=神宮克典)