「結び付き、強くなるアクション」-柏U-18監督・藤田優人

レイソルコラム

 古賀太陽や細谷真大、松本健太ら数多くの選手を輩出してきた柏レイソルの育成組織・柏レイソルアカデミー。そのトップカテゴリーである柏Uー18チームは藤田優人監督と迎えた新シーズンをたくましく戦っている。

 彼らの主戦場は、4月から年間を通じて戦う「高円宮杯JFAUー18サッカープレミアリーグ2024EAST(PL)」と夏季の風物詩であり、柏Uー18チームとしては優勝経験を持っている「第48回日本クラブユースサッカー選手権大会(JCY)」の2大会。

 6月を迎えた段階で、PLでは3勝2敗2分・勝点11の6位。JCYではJCY関東大会で湘南ベルマーレUー18を下して、7月開幕のJCY本大会出場を決めている。この2つの大会がひと段落したこのタイミングで藤田監督はここまでのチーム状況をこう受け止めているという。

 「自分たちには『アクション』というチームコンセプトがあります。あくまで『試合を動かすのは自分たちである』という考えを持ってトレーニングを重ねています。PLに関しては攻撃面での数字には満足をしていて、守備面については修正をしている最中。焦ってはいないです。JCYはトーナメント。戦い方は少し変わってくるところで攻守共に微調整はありますけど、焦っているほどではない。自分たちが試合を動かしていくことは変わらないので」

 この春は、試合を動かして、豪快に相手ゴールネットを揺らしてはいた。相手チームに相当数の決定機を献上するような内容が続きながらも、勝点を重ねることができていた。しかし、藤田監督は「今は開幕から勝ててはいますけど、そろそろ危ない。試合内容を修正していきたい」と警鐘を鳴らしていた。事実、その直後からの2連敗という結果を受けての修正点は「失点の多さ」ー。とりわけ、「得点の直後の失点の多さ」は目についていた。ここでのアクションは早かった。

 「一度、5月にしっかりと…2週間ほどですかね、守備面のトレーニングをして、その後にあったPLの市立船橋高校戦とJCYでも無失点で終えられているので、チーム作りとしては良い方向にあると思っています」

 守備の詳細については口にしてはくれなかったが、試合を見れば一目瞭然。全体をタイトに保ち、ボールへの執着や強度、連動性も以前より上がっていたあたりに事態の好転への期待を感じさせた。1シーズンの時系列的に、PLというリーグ戦で得た守備面の課題をJCYという一戦必勝のトーナメントの戦いの中へ向けた「微調整」の中で守備の課題を解決を試みて、PL後半戦での攻勢へ打って出るイメージがあるようだ。

 この2年間の柏Uー18チームの特長の一つとして、思い切りの良い配置展開や選手起用がある。選手それぞれのオリジナルポジションでの起用に囚われず複数ポジションで起用するケースも目立つ。これらは選手の可能性を上げる狙い、経験値を積む狙いはもちろん、今回の守備の修正内容の一端として紐付けしたくなるアクションだ。

 また、カテゴリーに拘らない選手登用も現体制を象徴するアクションだ。Uー15世代(中学生年代)の選手をUー18世代(高校生年代)の公式戦に迷いなく起用してチーム内の競争を誘発する。昨年、中学3年生でPLデビューしているMF加茂結斗(写真左)に続いて、今年も中学3年生であるMF長南開史(写真右)をJCYで起用し、彼らはそれぞれ大胆に堂々と結果を積み上げ、戦力として台頭しようとしている。

 「やはり、レイソルアカデミーの良いところは、同じ施設やグラウンドの中で、全てのカテゴリーの選手たちが日常的に顔を合わすことができるところ。『そのアカデミーの良さを活かしながら』ということです。昨年にしても、今年にしても、別にこちらから『チャンスを与えている』つもりはないです。彼らが自分たちの力でチャンスを手にしているんです。そこは伝えながら続けていますし、今後も同じように良い選手がいるのなら、どんどん引き上げて、試合に出てもらう。極端に言えば、『Uー12でも良い選手ならUー18の試合で』って思っていますし、もちろん、中学1年生や2年生でも同じ。『高校3年生だから試合に』という考えはないです。世界的に見ても、デビューする選手たちの年齢はどんどん若くなっているし、トップチームの試合でも、サポーター席の真ん中に、『柏から世界へ』という大きな幕が掲げられているじゃないですか。自分たちもそのつもりです」

 キャプテンのGK栗栖汰志やMF戸田晶斗、FWワッド・モハメッド・サディキをはじめとする最上級生の多くは藤田監督と過ごしてきた世代。同じく最上級生のCB福島大雅は「自分は藤田監督に人生を変えてもらったと思っている。必ず恩返しをしたい」と話すほど、藤田監督と彼らは強い結び付きを持つ。

 この結び付きの強さは試合を離れたシーンでも垣間見えることがある。

 試合前日に体幹トレーニングを望む選手がいたとしても、「準備の正解は選手それぞれ違うと思うので、見つけてくれたらいい」と藤田監督はトレーニングを止めない。また、ある日に高強度のサーキットトレーニングを課された選手たちは一度驚きの声を上げながらも、粛々とメニューをこなしていた。これまでの日々の中で走り切ったその先にある新しい世界を見せてもらった事実がなければ、成立しない信頼関係といえる。

 トレーニングを終えた選手たちは滝のような汗を流しながら、肩で息をしていても、顔は笑っていた。紅白戦に臨む緊張感は試合以上のものがある。だから、彼らが相手チームよりも先に動きを止めたり、足を痙攣させることがないことに驚きはない。アスリートとして、チームとして、積み上げてきたものが違うのだ。

 そして、この強い結び付きは選手たちのあるアクションを生むまでに至ったという。

 「こちらから促したのではなく、選手たちから『今年はチャンピオンになりたい。優勝したい』と我々に言ってきてくれた。『アクション』というコンセプトがまずあって、彼らの言う、『チャンピオンになる』という意志は尊重していますし、チームとしても強く意識している。これが良いサイクルなのかは分からないですけど、『2年に1度のJCY出場』となっているので、今年は彼らの言う通りになったらいいなと思っているんですけどね」

 様々な武器や個性、タレントを持つ柏Uー18チームを長く見てきたが、これだけ成長のアクションに富み、強い結び付きを武器にするチームには初めて出会った。JCY本大会がスタートする、この7月の終わりは少し忙しくなりそうだとカレンダーを見つめている。

(写真・文=神宮克典)