田中隼人選手、真家英嵩選手、升掛友護選手の来季トップチーム昇格を発表した柏レイソルの育成組織・柏U‐18。その精鋭たちを率いる酒井直樹監督に話を聞いた。
上記の3選手だけでなく、かつては古賀太陽選手や、大学を経て2023シーズンからトップチームに加入する落合陸選手(東京国際大)、現在海外でプレーする伊藤達哉選手(シントトロイデン)らを育ててきた。監督として今季より柏レイソルアカデミーに復帰すると、直ちにアカデミーの変革に着手した。ボールを大事に扱い、パスを連ねて相手を崩しにかかる今までのスタイルも随所に見えるが、強く奪って強く相手ゴールに迫る戦い方へと一新されている。
「1人の指導者として、1人の監督として、自分のカラーというものを明確に打ち出すべきだと考えての決断でした。私のその思いに選手たちを巻き込むわけですから、責任と覚悟を持ってチームを始動させました。サッカーは常に進化していて、もう10年前のやり方では限界がある。その為に学びを続けてきましたし、昇格する3選手に代表されるように、個として秀でたこの世代を預かる以上、『なんとかしなければ』という思いでした」
U‐18チームの監督としてだけではなく、柏レイソルアカデミーのヘッドオブコーチとして指導にあたる酒井監督が思い描く戦い方は今後のアカデミーの大きな指標となる。そこには昨季までの4年間に渡る日本体育大柏高サッカー部での指導経験が大きく関わっているという。
「私にとって、あの4年間は『チャレンジ』そのものでした。たくさんの試合を見て、たくさんの識者の知見を借り、またたくさんの指導者の方々と意見交換を続けるうち、今のやり方に辿り着きました。私たちは今後に求められる要素を予測していかなくてはいけないし、私たちがこの現場に立たせもらう以上は学びを続けて、確かなものを選手たちへ落とし込んでいかないと」
そう強く思うのには訳があった。これまで強いインパクトを残してきた工藤壮人選手らの世代、秋野央樹選手(長崎)らの世代、中山雄太選手(ズウォレ)らの世代がこのグラウンドで担ってきた役目をこれから彼らが担うことになる。彼らがプロとなり向こう数ヶ月後に残すであろう足跡がアカデミーの今後の礎となるからだ。
「だからこそ、素晴らしいものに仕上げていかないといけません。私も他のスタッフも『今年は』、『この世代は』という思いがあることを共有しているし、選手たちにもそのままの気持ちを伝えました。その気持ちに練習や試合でしっかりと応えてくれています。戦術的な部分でも開幕から夏を迎える頃には手応えを得られていたし、春先に3年生に怪我人が出た影響で下級生たちにも良い機会を与えられたことは、来季を見据えた上ではとてもよかった。彼らの人間性や取り組みのおかげで良い年にできています」
主戦場である「高円宮杯U‐18サッカープレミアリーグ」でも首位・青森山田高校を破るなど逞しく戦い続け、上位争いを展開している。指導者と選手たち、関係者の手応えや共鳴が明確に結果にも表れているという事実は未来を明るく照らす。
「グラウンドから見えるレイソルのエンブレムを見て、『どう感じている?』ということですよね。『そのための今』なんだと伝えていきたいですし、より良いものを作り上げるために、彼らは本当にがんばってくれています。選手たちのプレーの個性や人間性も受け入れながら、私たちも応えていかなくては。彼らがあって初めて私がいるんですから」
酒井監督がそう話す傍らで、下級生たちがミニゲームに興じていた。強度高く、対峙した相手からボールを奪い、正確なタッチで攻撃へ転じていた。その様子は季節が移ろうかのように新しい色合いに見えた。
(写真・文=神宮克典)