その時シュートフォームがやや硬めに見えたのには理由があった。
「…実は今までで一番緊張していました。ああいうシュートって一番苦手なので(笑)」
それは8月9日、ヴィッセル神戸戦の90+5分だった。左サイドから入ったミドルパスを瀬川祐輔選手とクリスティアーノ選手が繋ぎ、丁寧に中央へ折り返した。まるでリボン付きのボールを呼び込み、勝利を決定付けるゴールを奪ったのは細谷真大選手。細谷選手は咆哮しながらチームメイトの歓喜の輪へ飛び込み手荒い祝福を受けた。
東京五輪により中断していたリーグ戦の再開初戦で、細谷選手は上位・神戸を下すだけでなく低迷するチームにとってこの先の希望となる大仕事を果たした。
「みんなの祝福がうれしかったです。普段はそういうキャラではないエメルソン・サントスまで来てくれたので(笑)。一度裏へ抜けてボールをもらおうとしたんですけど瀬川くんに出て、瀬川くんからもらおうとしたけどクリスに出た。クリスがシュートを打つと思ったのでこぼれを狙っていたらパスが来た。あとは流し込むだけでした」
プロ2年目だが、2019年柏U‐18在籍時の第2種登録期間を合わせれば実質3年目のシーズン。結果が必要なことは細谷選手が一番理解していた。今季は随所にポジティヴなインパクトを残しながらも、1ゴール1アシストにとどまっていた。
「生き残ってくためにゴールは必要ですし、たとえ試合でいいプレーをしたとしても、この世界は結果を出さないと試合に出られない。毎試合ゴールやアシストで結果を残したい。自分の中で『やれている』っていう感触はあっても、最後の最後で迷いや焦りがあった。自分にはFWとしての責任感が必要なんだと思います。今は常にゴールから離れないような動き出しやポジショニングを意識していますし、チームが苦しい状態の時に良い仕事をするFWでいたいですから」
そんな理想像に限りなく近い仕事を果たした細谷選手がフォーカスを合わせるのは3年後の自分。
「自分は2024年のパリ五輪に出ることを1つの目標としていますが、レイソルでスタメンを獲って、ゴールを決め続けなければ、その道自体が全然見えてこないと分かっています。レイソルで結果を出して、スタメンに定着できるような選手になりたいです」
奇しくもこの日、細谷選手より先にゴールを決めた小田裕太郎選手(神戸)も同い年のパリ五輪世代。ドリブルや得点力などスペックが似ており、試合後言葉を交わしていた2人には今後ライバルとなりそうな予感もある。細谷選手には、華の都へ通ずる道すがらでいろいろなものが立ち塞がるだろう。すべてなぎ倒すような勢いで突き進んでほしい。
(写真・文=神宮克典)