荒ぶる、その訳 -戸嶋祥郎

レイソルコラム


 7月10日に三協フロンテア柏スタジアムで第104回天皇杯3回戦・柏レイソル対筑波大学蹴球部が行われる。これまで互いに関係の深いこの対戦について取材を続けてきた。

 筑波大からは柏アカデミー出身者の戸田伊吹ヘッドコーチとMF田村蒼生に登場してもらったが、今回は筑波大学出身の柏レイソルMF戸嶋祥郎にマイクを向けさせてもらった。2年前の第102回大会での同カードでスタメン出場していた選手の1人でもある。

 戸嶋は日頃からレイソルに携わる者にとって特別な存在。時にチームのスポークスマンとして、多くのメディアが頼りにする選手の1人。

 また、選手会活動や学校訪問活動にイノベーションをもたらした実績もあり、メディアだけでなく、サポーターからの信頼も厚く、自身のSNSで披露する大喜利だって見事。「ゲームシャツはパンツにイン」がトレードマークの戸嶋がゴールの後に見せる「ニースライド(膝滑り)」のワイルドさには心地良いギャップを感じてしまうくらいに「サッカー」という競技に、「柏レイソル」というクラブに対して誠実な人だ。

 そして、母校に対しても、特別な思いを持っている選手の1人。

 練習を終えた戸嶋は日立台に集まったメディアに様々なコメントを求められていた。ここ数試合のレビューやチーム状況、戦術的言及。物腰柔らかく問いに応えていく。その最後に、筑波大学戦の話題を当てさせてもらった。

 「もちろん、楽しみにしていますけど、実は筑波大の町田ゼルビア戦はまだしっかりと見られてはいないんです」

 そう話す戸嶋は筑波大学時代に高嶺朋樹、会津雄生(オークランド)らと共に第97回天皇杯に出場し、ベガルタ仙台・アビスパ福岡と2つのJクラブを破り「筑波旋風」を巻き起こした経験を持っている。

 抱えていた手荷物を一度置いて、汗を拭った戸嶋。「この話は長くなる」、そう悟っていたかのようだった。

 「自分は出場こそしていましたが、自分たちのチームの中心だった三笘薫(ブライトン)や中野誠也(大宮)が持つ『スピード』や『個の力』に引っ張られて、そこについていっていただけですけどね」

 謙遜してはいるが、おそらくその活躍が自身の今を切り拓いたことは間違いないだろうし、過去には会津らの名を挙げて、「筑波大時代に経験した競争が今の自分のプレースタイルに大きく影響している」と話してくれたこともある。戸嶋は当時の自分たち、あの伝説的なチームにあったメンタリティをこう回想。穏やかだった表情はだんだん真剣に。

 「あの頃、僕らは『プロになって活躍する』ー。そんなメンタリティを持って大会に臨んでいました。選手それぞれが『プロ』という目標を意識して、そこから逆算をして戦っていましたし、『だから、勝って当たり前なんだ』という考え方を持っていました。きっと、今の筑波大の選手たちも同じようなメンタリティを持って大会に臨んでいるはずだと思うので、逆に僕らは『プロの意地』であるとか、『この試合に勝って、上へ行くのはレイソルだよ』という姿勢やプレー、そして、結果を見せていかなくてはいけない。彼らのことをナメて試合に入れば、やられてしまう。簡単にはいかない相手との対戦ですから、今回も『真っ向勝負』になるでしょう」

 前回対戦となる第102回大会では1ー0の辛勝。立ち上がりからボールを持つ筑波大と集団的にボールを奪いにいくレイソル。両チームが睨み合う展開が続いた中、勝負は後半まで分からなかった。

 「高橋祐治さん(現・清水)のスーパーゴールがなければ、あの試合はもっと難しい試合になっていたはずです。レイソル育ちの田村の涙も覚えていますよ。彼にはレイソルへの特別な思いがあり、チーム全体からは『やってやる!』というムードを感じながらの試合でした。プロとアマチュアなので、大学生を相手にする以上は絶対に勝たなくてはいけない度合いは高くなる。目の前にはあの水色のユニフォーム姿の選手たちがいて、ベンチには自分の恩師である小井土正亮監督がいらっしゃるわけで。自分の古巣のアルビレックス新潟と対戦するのとはまた別の感情や独特の緊張感がありましたね。きっと、今回もそうでしょうね」

 かつての自分たちのように、プロ志望の若き後輩たちが再び日立台へやってくる。彼らがどのような準備をして、どのような気概でレイソルに立ち向かってくるのか、戸嶋にはよく分かるはずだ。しかも、筑波大はアミノバイタル杯を終えて、調整期間も十分にあった。

 戸嶋は昨秋、麗らかな日差しが差し込む筑波大学第一サッカー場へ足を運んで、後輩たちの勇姿と優勝セレモニーを見届けている。競技的にも文化的にも自分たちの時代との違いや新しい息吹を身をもって感じたそうで、戸嶋の口角が少し緩んだ。

 「今や大学リーグの試合で、あのグラウンドに2000人強の観客を動員できてしまうことも含めて、僕らが大学時代に見ていた景色とは別物のエネルギーを感じましたよ」

 実に戸嶋らしい視点のワンクッションを挟んでから、表情はまた真剣になり、一気に話は込み入っていった。

 「しかも、彼らは『J1首位』を叩いて上がってきているチーム。筑波大からもそれほど遠くない日立台ということで、また彼らのパワーを感じることになるでしょう。今回も熱い試合になりますね。彼らは連携の力やボール扱いが巧みですし、テクニックのある選手がパスの中継役になって、コンビネーションで攻めてくるので、捕まえづらいチームだなと思います。やはり、戦う上ではその良さや長所を徹底して潰していく必要があるし、レイソルとの縁を持つ田村や戸田の特別な思いもプレーに影響してくるでしょうし、チーム全体で『レイソルも食ってやろう』と臨んでくるのは間違いない。僕らはそういうパワーをねじ伏せる必要があるし、叩いてこそ。そういう気持ちです」

 「ねじ伏せる」ー。

 「叩いてこそ」ー。

 戸嶋が少し強い言葉を用いたのには訳がある。

 「彼らの中には『より成長を』という気持ちや『再びジャイアントキリングを』という思いがある。同じように自分たちの中にも『タイトルを』という気持ちや『天皇杯を獲って、アジアチャンピオンズリーグへ』という強い思いがある。その思いの強さをプロとしての意地と一緒に見せたいと思います」

 挑発なんてするつもりはない。ただ、天皇杯の前回大会ファイナリストとしてこのラウンドで姿を消すわけにはいかない。レイソルにとっては「あの舞台」へ再び向かうための大切な1試合。その気概をこちらに伝え、「がんばります!」と手土産を再び小脇に抱えた。

 そして、最後にこう話した。

 「でもね、また自分と大学リーグの日程を見ながらになりますけど、『より重要な試合』をまた観に行きたいなって思っていますよ。『ミーハー』なんで(笑)。彼らから刺激やパワーをもらいに行くつもりなんですけどね!」

 どんな言葉や表現を用いていても、戸嶋の筑波大学蹴球部への愛情がたっぷりと伝わってきたことはここに記しておきたい。

 この項の作業を進めていた土曜日、豪雨のため試合開始は遅れた。この試合で戸嶋にいいプレーがあれば記事に盛り込みたいし、いい写真が撮れたら即採用というスタンスでいた。
 
 混み合う入場導線を逆に進み、スタジアムへ急ぐと、視察に訪れていた筑波大学蹴球部・小井土監督とばったりと鉢合わせ、「水曜日を楽しみにしています」と伝えて、笑顔で別れた。

 そんな時系列の中で生まれた戸嶋のアディショナルタイム勝ち越しゴール。戸嶋の言葉が聞きたい。

 試合後の取材エリアではヒーローとしてまたたくさんの記者に囲まれていた戸嶋はこの夜も丁寧な対応を見せていた。また、その終わりを待って、「今日は恩師に良いところを見せられたのでは?」と声を掛けてみた。

 「いやいや、自分が試合に入ってから失点してしまったし、キックの精度も全然ダメでしたから、昔なら、ゴールを決めていても怒られてしまうんですよ、こういう時はく特に(笑)!」

 この夜の5つ星のヒーローは、そう微笑みながら何度か頭を掻いてからクラブハウスへ消えていった。

 やはり、戸嶋に話を聞いておいてよかった。こちらが腕を捲ることなく書き進められるような、誠実なプレビューを伝えてくれた上に、素晴らしい結果と共に天皇杯3回戦へ導いてくれたからだ。改めて筑波大学蹴球部はまた特別な選手をサッカー界に輩出してくれた。

 かくして、水曜日、柏レイソルと戸嶋、筑波大学蹴球部は最高の状態で向き合うことになる。今回の取材の結びはピッチの中で語られる。

(写真・文=神宮克典)