至宝体質-マテウス・サヴィオ

レイソルコラム

 もう、かれこれ4年になる。

ピッチを駆ける彼のプレーにクギ付けとなって久しい。

「天才」

「ファンタジスタ」

「クラッキ(名手)」

 あの魅力的なプレーを目の当たりにするたび、そんな言葉を探してしまう。

 広い視野や創造性、それを支えるテクニック。時速30キロを優に超えるスピードだってリーグ屈指のスタッツだ。かつてブラジルのサポーターたちがマテウス・サヴィオを「フラメンゴの至宝」と喩えた意味を探すのにそれほど手間は取らさない。サヴィオはそれほどの選手である。

 だが、そんな彼を以ってしても、今季は難しいシーズンを送っている。無論、「今季について」と問えば、このような言葉が返ってくる。

 「今、『今季の自分』についてを振り返ることは少し難しいよ。今のチーム状況を鑑みれば、『自分はこうでした』などと話すことを私は望まない。今は下位で残留争いをしていて、チームは懸命に状況を変えようと努力しているし、どんな時も全員が一丸となって前向きに取り組んでいる最中にある訳だから」

 ならば、「チームの今季について」と仕切り直すとサヴィオは今秋までのハイライトと今後の展望についてをこう話した。その瞳はとても真摯なそれだった。

 「振り返れば、今季は『昨季よりも上へ』と臨み、多くの選手が加入し、去った選手もいた。様々な『変化』もあった中で、日々、みんなが擦り合わせを続けている。もちろん、結果については望む結果ではないが、チームが1つになって、真摯に精査を行い、J1に残留するための戦いを続けなればいけない。今までと同じように、全ての選手がベストを尽くし戦うことが何より大事だと思う。我々レイソルにはそれができる。『結束力』のあるチームだからね」

 井原正巳監督就任以降、レイソルから伝わってくるのは、まさに「結束力」。そして、その力を礎とした「戦術的忠誠心」を共有し、再建中のチームにあっても、その中心として在り続けるサヴィオを支えるのは加入直後に語ってくれたこの一家言だ。

 「現代サッカーは、『攻』と『守』をセパレートして考える時代ではない。どちらかの能力が秀でているだけでは話にならない」

 そして、4年が過ぎたこの秋にも、新たなワードを用いてレイソルのエンブレムに忠誠を誓った。

 「サッカーは言わば、『集団闘争』。誰か1人が輝けば勝てる競技ではない。今のようなチーム状況にある中で無闇にエゴを振り回すべきではない。そもそもそれは私の姿ではないしね。私が活躍せずでも、チームが勝てば幸せだし、レイソルのチームメイトたちも同じ考えの選手ばかり。『集団闘争』という部分にこだわって戦うよ」

 そして、「何故、そこまでして戦ってくれるのか?」と問うと、まずはこう切り出した。

 「自分を見出してくれたフラメンゴへの特別な思いは私の中で変わらない。だけど、私は2019年から柏レイソルにいる。何故か?と云えば、レイソルに来てから、選手として、キャリア的にも、人間としても、『成熟』を感じている。柏レイソルは私を成長させてくれた。私は数年前にキャリアを終わらせてしまうほどの大怪我をしたんだ。でも、レイソルは私の再起を信じて、手厚い対応を施してくれたことは今も忘れられないし、私も家族もこの街が大好きで、最愛の息子はこの柏の街で育っていることもある。柏レイソルというクラブは私たちにとって、『第2の家』だからです」

 その言葉で十分だった。

 きっと、サヴィオは彼らしくレイソルと私たちを導くだろう。残された試合でも、必ずや私たちを魅了して、大歓声が響く中、1人ピッチに膝まずき、両腕を広げ、頭上に広がる大空を仰ぎ見て、神の祝福を待つ。あの瞬間が待ち遠しい。

 かつて、秘めたる潜在能力を示し、「至宝」と呼ばれた青年は、ここ柏で成熟を果たし、真の「至宝」となった。

(写真・文=神宮克典)