7月11日柏レイソルは湘南ベルマーレとJ1リーグ第5節を戦い、マイケル・オルンガ選手と仲間隼斗選手のゴールで勝利した。
この試合は新型コロナ禍で迎えた初の「観客数制限試合」ー。約3ヶ月に及ぶ中断期間を経て2つの「リモート・マッチ(無観客試合)」をこなした後、Jリーグの新たな施策として観客数上限を5000人または会場収容人数の50%の少ない方として開催。観客は入場の際に検温と消毒が義務付けられた。
取材するメディアの環境も著しく変化した。
スタンドで取材するペン記者も、ピッチで撮影するスチールカメラマンやムービーカメラマンたちも人数を限定。取材に入る際は試合日までの14日間体温を記録し、提出することが義務付けられ、取材エリアにも接触をできる限り避ける導線が設けられているなど、取材活動に支障が出ないようぬかりなく配慮されている。
一方、選手や監督へ話を聞く手段はリモート化が徹底されており、試合後会見場での監督会見も行われないし、ミックスゾーン取材も休止されている。
すべては選手やスタッフ、運営に関わるスタッフ、レフェリーたちを含め、ピッチ上の人数や距離感が考慮されてのものだ。
観戦スタイルにも大きな変化がある。日立台名物とも言える大歓声は今は小休止ー。声を連ねることは感染対策の観点から禁止されているため、心の機微を表したり選手を後押しする唯一の方法は「拍手」となる。
この「拍手」には、サッカーをより高貴な競技へ押し上げるような感覚があった。好プレーに、ゴールに、失点の後に大きくなる拍手の音。多彩なチャントも素晴らしいが、静寂の中の拍手にはリサイタルのような趣があった。
湘南戦を観戦した柏市在住のあるサポーターと話すことができた。
「試合を見られる喜びと、仲間たちと再会できた喜びがありました。声を出せない歯痒さはあるけど、『拍手』という表現で伝えられた点は有意義でした。一時は観客を入れての再開は困難なのではと考えていましたから…。今は何よりも感染対策や観戦様式をサポーターが徹底することが最も必要だと思います。あのままリーグ中断となっていたり、再中断なんていうことになったら、Jリーグというビジネス自体が成立しなくなる。選手たちの雇用も見つめ直す必要があるはずで…その観点からもひとまずはこの再開を喜んでいます」
レイソルのホームゲームでは現在両隣3シート空けてチケットが発売されている。この日は試合当日までに完売。満員でも2645人と数字としては少なく、さらにいくつもの制限が課された中での観戦にあって、スタジアムの価値を再確認したサポーターもいた。
「一時は『もう、これ以上リーグ再開が延びたら中止だろうな』と考えていました。やっと今日、久々に観戦できて改めて『スタジアムで、日立台で、応援するのは楽しいな』って思いました。座席の間隔は適切だと感じましたし、サポーター同士で話す時も互いの距離に気を付けていたと思う。拍手ではあったけど、一体感も残していたし、力強く感じた。ただ、ゲーフラの使用可否については純粋に興味があります。距離は取れているはずですし、ゲーフラは掲げてもいいのではないかと」
この観戦様式に適応していくうえで、サポーターの観戦事情も変化することが考えられる。
この日スタジアムへ訪れなかったレイソルサポーターの中には、席数減によりチケットが手に入らなかった人以外にも、感染再拡大の状況下「自粛」した人も、あえて「行かない」という選択をした人もいるのではないだろうか。
今後は近隣自治体に於ける感染者数の推移、各々の健康状態、その他様々な要素がスタジアム観戦への判断材料となり、サポーターのマナーとなっていくだろう。スタジアムに行くこと、常に現場にいることだけがクラブ愛の表現やサポーターの価値ではなくなっていくかもしれない。
そして、声での応援ができないというサポーターの少しのフラストレーションを和らげたもののひとつが、この日ケガから復帰したGK中村航輔選手のコーチングの声だった。守備陣形を整える為に周囲のチームメイトへ掛ける声はかき消されることなくスタンドまでも届いた。
「やっぱりプレーに関わる音とかピッチ上の声というか…『航輔選手の声』がすごく印象的でした。『試合中にあんなに声を出しているのか…』と驚き、もうやみつきになりそうです。あの声は『エンタメ』ですね。あの声を聞きにまた行きたいと思うくらい(笑)。今まで感じられなかった部分なので、新鮮でした。また新たな楽しみ方が見えてきました」
柏レイソルにとって初の「観客数制限試合」は勝利という結果も手伝ってサポーターの反応は概ねポジティヴ。だが、個人差はあれど、入場時の人の連なりや試合終了後の規制退場時に発生してしまった「密」への言及もいくつか聞かれた。このあたりの解消は目下の課題となりそうだ。
私たちとウィルスとの対戦結果が出るのは約半月後。一足飛びに収束をみるものではないだけに、改めて今、クラブとサポーターの寄り添い方が問われている。
(写真・文=神宮克典)